白桜もそばへ歩み寄り、片膝をつく。

華樹の手の中には、正気をなくした紫色の小鳥がいた。

華樹の両掌に収まる大きさで、羽から背中、そして頭も半分ほどが紫色で、腹と顔の下の方は白い。

羽をべたっと広げて、ぴくりともしない。

華樹に問いかけた白桜に、百合緋が慌てたように言ってきた。

「違うのよ白桜。わたしが家の外で見つけて拾ったの。白桜がすぐに見つからなかったから、華樹さんにお願いして手当してもらってたんだけど……」

なるほど。白桜が奥に引っ込んでいたせいか。

「白桜様、この小鳥――いえ、この方は……」

華樹は、まだ見習いではあるが御門の陰陽師。

この小鳥が何者か、うっすらわかっているのだろう。

「黒のところの涙雨(るう)殿だな。意識はないままか?」

「いえ、一度だけ取り戻しました」

「様子は?」

「腹が減った、とつぶやいて再び落ちました」

――ああ、そういうことか。

泣きそうな百合緋と、困った様子が隠せない華樹。

黒の式ならば、あれが使えるかもしれない。

「ちょっと待っていろ。すぐ戻る」

「白桜?」

百合緋にうなずいて見せ、立ち上がり自分の部屋に戻った。天音がついてくる。

「白桜様、それは」

「うん。たぶんこれで大丈夫」

文机に置いてあった紙を一枚とって、百合緋の部屋に戻る。

涙雨を華樹の手のひらにのせたまま、持ってきた紙片を涙雨の額のあたりにあてる。

紙片が光を帯び、白桜の手を離れて浮いた。

そしてぱっとはじけるように光の粒子を残して消える。光の粒子が涙雨に降り注いだ。

直後、涙雨が目を開けて、羽を腕のように使って身を起こした。

『む? ……なぜ御門のひ――主がおる?』