白桜のその言葉に、絶句する交渉の烏天狗。

だが、すぐに怒気(どき)をはらんだ声が返ってくる。

『な……っ! 今まで人の子にへりくだらずきた我らを愚弄する気か!』

「いや、割と真面目に言ってるんだけどな? あなたたちの矜持(きょうじ)を無視するわけじゃないけど、一葉は黒藤の配下なんだから、あなたたちも同じになればいいってだけだ」

「白、その考えはちょっと間違ってる気がするぞ?」

「そうか? だが、一葉と双葉で争われても、人間ははた迷惑なだけだ。やめてほしい」

「まあそうなんだけど……」

黒藤が、うーんと悩むような目をしながら頬を掻く。

『――わかっていながら明かさないのは主殿の悪い癖だぞ』

バサッと翼の音がして、大きな烏が黒藤の肩に舞い降りた。

『……! 一葉!』

『しばらくぶりだな、双葉よ』

『なぜそのような人の子にくだる! 我らとともに帰るぞ』

『不可能だ』

『な……! 芯まで人の子の傀儡(くぐつ)になったか……!』

『そうではない。我らは主殿を裏切ろうと思えばいつでも出来る』

「おい、それちょっと問題発言」

『ならば主殿、我らの独断専行を許容しておるのはなぜだ?』

「独断専行?」

「………」

つぶやいた白桜は、続けて黒藤を見やる。

黒藤は糸目になって、なんとも居心地が悪そうだ。

『御門の主よ、時空の妖異を双葉の里へやったのは、我ら一葉だ』

「――は?」

『そして御門の門前に置いたのも、我ら。作夜見の人間が入り込んだのは、人間が迷い込んだゆえのこと。だが、人間に害悪あれば主殿は我らを許さぬ。ゆえに、時空の妖異とともに御門の門前に託したのよ』

「……黒?」

「………」

どす黒いオーラを放ちながらにこにこする白桜に名前を呼ばれて、黒藤は肩を震わせた。