平坦だった声に、やっと感情が見えた。

一葉を取り戻す。それは、黒藤からという意味だろうか。

白桜は、顔にも声にも感情が出ないように気を付ける。

「……そのために、その人の子の使役を迷い込ませたりしたのか?」

涙雨のことだ。

『否(いな)。あれは勝手に迷い込んできたのだ。だが、時空の妖異が人の子の使役にくだった話は聞き及んでいた。彼(か)の主だと知り、人の子が我らのもとへ来るよう仕向けた』

「それにしては……時空の妖異が倒れていたのは、その人の子の流派と対をなす我が邸だった。わざとにしては、ずさんな気がするが」

白桜のその言葉に、交渉をする烏天狗は息を呑み、頭上の烏天狗たちもざわついてように感じた。

『……なに? ぬしは、人の子の一族ではないのか?』

「ない。我らは陰陽道御門流。あなたたちが人の子と呼んでいるのは、陰陽道小路流の若君だ。小路と御門は対をなす存在。我らに手出ししたとて、小路流に関係することはない」

『なんと……しかしあの時空の妖異からは、確かにぬしらのにおいがしたが……』

「………」

あ、もしかして。

と、白桜は心当たりがあった。涙雨は、真紅とともに御門別邸を訪れたことがある。

そのとき、かすかながらにおいがついてしまったのかもしれない。

涙雨が暮らしているのは黒藤が住まいとしている小路所有の家で、黒藤以外に術師はいない。

大勢の陰陽師がいる御門別邸と黒藤ひとりのにおいでは、差が出てしまったのかもしれない。

「時空の妖異はわが家へ来ることもある。そのときについたのやも知れぬな」

『そのような……では、ぬしらに言うても、一葉は戻ってこぬということか』

「そうだな。俺は御門流当主だが、一葉の烏天狗に命令をくだせる立場ではないよ」

さっと、白桜が扇を目の前の烏天狗へ向ける。

「俺たちは無益な争いをしたくはない。俺の要求は、このまま手を引いて小路に関わらないこと。そして、迷い込んだ人間にも危害は加えず返すと約定(やくじょう)してほしいことだ」

『……迷い込んだ人間?』