白桜は肌に感じた。

御門別邸を覆う結界ごと、烏天狗の妖力に包まれている。

涙雨の霊力を喰らったのがこいつらだとはっきりわかるくらい、涙雨の色をした妖力。

このまま、あやかしの里に引っ張り込もうというつもりか。

――黒藤を狙ったにしてはまだわからない点があるが、こうして姿を見せたのには理由もあるだろう。

少なくとも、邸内にいる誰かに対して。

……刹那、冬湖のことが頭に浮かんだ。

だが、冬湖は白桜が護っている人物だ。目的が冬湖であっても、そこまでいかせない。御門が当主の名にかけて。

堂の縁側に出た御門の三人と天音にすべての視線が向く。

白桜は手をひらめかせて、何もなかった空中から扇子を取り出す。

バッと開かれたそれは真っ白で、模様も文字も描かれていない。

白桜は扇子を上空へ向け宣言する。

「さあ、俺に用があるのだろう? 話したい奴から降りてきな」

白桜の隣に天音が立つ。

いつの間にか天音がよく使う武器である大鎌を手にしている。

白桜たちがいる堂の縁側、その前、庭の方へひとりの烏天狗が降り立った。

人の姿をした妖異。交渉役か、それとも切り込み隊長か……。

『我ら、双葉の烏天狗』

瞳の部分だけ空いた黒い面をした烏天狗は、そう名乗った。

白桜は落ち着いて返す。

「承知している。話す気はあるようだな?」

『我ら、一葉の烏天狗の対(つい)となるもの』

一葉とは、黒藤が使役にくだしたところだったはずだ。

会話する気があるのか、一方的に言いたいことだけ言うつもりなのか、判別しづらい対応だった。

白桜は会話をするように心がけた。

「その名も聞いている」

『不甲斐なくも一葉は、人の子の臣(しん)とくだった』

「……そのようだな」

黒藤が使役にくだした件は真紅を殺しかけたからだったが、妖異にそんなことは関係ないのだろう。

『我ら、一葉を取り戻したい』