黒藤は鬼の血を継いでいる。

そしてその鬼は、鬼の中でも最たる強者にしか与えられない、『鬼神』の称号を得ていた。

鬼神は、強さを極めた鬼の妖異に与えられる尊称で、実際に神であるわけではない。

――その子である黒藤を狙っていた。

「理由はわかるか? 黒を喰らうためか、己の格をあげるためか……」

「……申し訳ありません。そこまでは証言が出てまいりませんわ」

「わかった。止(と)めてくれ」

「はい」

すうっと、天音の霊力が収まっていく。

華樹と結蓮はやっと息がつけた。

元鬼神である天音は、本気を出せば手加減していても肌を突くような威圧的な霊力をしている。

「傷心ゆえ迷い込んだ、か……」

白桜がひとりごちる。

「はい……あやかしの里に入ってしまう理由としてそういう例はありますから、作夜見のお嬢様は巻き込まれた、ではなく、自分から入ってしまった、ようですわ」

天音は眉を下げながら言う。

「陰陽師の家系ってだけで、においはついてまわるからな……」

「におい、ですか?」

呼吸を整えながら華樹が返す。

「そう。霊力の波動ともいうかな。華樹や結蓮も、霊感が薄かった頃も、御門の系譜ということは妖異にはバレていたんだ。魂に染み付いたにおいだと、無炎が言っていたな」

「魂……」

「嫌なものだよ。逃げることをゆるさないそれだ。冬湖嬢も……」

「――白桜様は――」

「白桜様! お邸(やしき)の外に!」

華樹が言いかけたのを遮って、天音が声をあげた。

白桜が堂の外に出る。

すると、御門別邸の空を覆う黒い鳥(からす)たちがいた。

「お出ましか」

白桜は冷静だった。

続いた華樹と結蓮は、その数に息を呑む。

「白桜様、これはすごすぎでは……」

「大丈夫だ。俺たちがいる」

「……はい」

華樹が神妙な声でうなずく。

上空には人の形をした、黒い翼を持つ者たち。――異空間だ。