「最近のあやかし界隈は無法地帯なところもあるようですわ。わたくしと無涯(むがい)が統率していた頃はこんなことありませんでしたのに……。ヤキ入れてきますわ」
「待て。それも重大事項だけど、今の問題は別」
「はっ、そうでしたわ。わたくしとしたことが。失礼いたしました。もう一度訊いてみますわ。ヤキ入れる目星もつけておきませんと」
「………」
ヤキ入れるのは変わらんのかい。
普段しとやかな天音だが、本質は『鬼神』なのだろう。
天音が再び正座で目を閉じる。
「……――いましたわ。涙雨殿の目撃証言です」
「どこからだ?」
「これは……烏天狗の隠れ里……? でしょうか……」
「からす天狗? 詳細はわかるか?」
白桜に問われて、天音は更に神経を研ぎ澄ます。
「……双葉(ふたば)の烏天狗、という声が聞こえますわ。烏天狗の隠れ里に繋がる道を、紫色の小鳥が飛んでいたと証言があります」
「そこに人間はいたか、わかるか?」
「……人間……見たと言っております。……この人間は喰われる直前だったようですわ」
「双葉の烏天狗にか」
「ええ……。人間が、傷心ゆえに迷い込み……双葉の烏天狗は喰らおうと後を追っていた……」
「作夜見の方、喰われるところだったんですか!?」
華樹が声をあげた。
「はい……。ですが、突然いなくなった、と……」
「いなくなった?」
「天音、涙雨殿に関する証言はほかには?」
華樹が返したが、天音は主の問いかけを優先した。
「涙雨殿は……付け狙われ……そうですわね、桜苑の言う通り、涙雨殿は双葉の烏天狗に狙われていたようですわ。黒藤様をおびき出すために」
「「――え」」
「黒か……」
白桜は腕を組んだ。
涙雨を狙っていると桜苑が指摘した時点で、可能性は考えていた。