御門別邸、最奥の終(つい)の堂。

月御門が主格とする存在が祀られた、今はもぬけの殻の祭壇。

その前に座した白桜は、正座のまま体を後ろへ向けた。

「天音。頼んだ」

「はい」

鈴のような声で天音が答える。

この場にいられない百合緋は私室にいて無炎がそばに控えていた。

滞在中の冬湖にはこのことを知らせておらず、牡丹が話し相手という名目でそばにいる。

堂にいるのは、白桜、天音、華樹、結蓮だ。

天音が今一度、『鬼神』の名をもってこの国のあやかしに号令をくだすのだ。

万が一の天音の力の暴走と、外からの襲撃に備えていた。

「では――この天音、我が主白桜様の名のもとに、この国のあやかしたちに問います――」

座した天音から、甚大な霊力が放出される。

華樹と結蓮は正気を保っているので精一杯だ。

白桜は目を閉じることなく、霊力を広げる天音を見ていた。

天音の『声』が、この国に住まうあやかしたちに届けられる。

すぐさま反応を返してきたあやかしの声は、白桜もとらえていた。

――天音は、白桜の母・白桃の友達だった。

なんでも、白桃が勝手に修行と称して山の中を歩いているとき出逢ったらしい。

それ以来天音の方が白桃を慕って人里に降りてくるどころか御門の家までやってきてしまい、天音の白桃への忠誠心を白里に認められて、御門別邸で暮らすようになったとのことだ。

だが天音は白桃の式ではなく、白桜が天音にとっての最初の主だった。

白桜が生まれるより前から別邸にいて、白桃が儚くなってからは母のように接してくれた天音。

かつては『鬼神の天女』の異名をとっていた、妖異として最上級の力を持ったあやかしだ。

「――白桜様。ちょっとシメてきますわ」

いきなり立ち上がった天音を白桜が止める。

「待て。何か情報があったのか?」