「白!」

「………じゃ」

白桜は軽く手を挙げて離れようとしたが、黒藤はガーンと傷ついた目になる。

(………)

捨てられた犬のような態度に、後ろめたくなる白桜。

「……なんだよ」

「白に逢ったら訊きたいことあったんだけど……」

声がぐすぐすと泣きそうだ。なんだその態度は。

「手短に」

「とら、元気?」

「ん? ああ。敷地内を走り回ってるよ」

とらとは、真紅の一件があったときに引き取ることになった猫だ。

本名、藤虎(ふじとら)。

黒藤のところに兄弟猫がいる。

「アレルギー出てない?」

「……出てない。さすが神獣の子供といったところか」

白桜は猫アレルギーだ。そして極度の猫好きだ。

白桜が引き取ることに、幼い頃アレルギーが出た経緯を知っている黒藤は難色を示したが、とらとこたが神獣の子供で普通の猫ではないため、引き取ることになった。

「よかったー。あんときの白、マジ辛そうだったから」

「……すまない」

猫アレルギーを出したのは白桜も憶えていないくらい小さな頃の出来事なので、黒藤や天音の話を聞く限り、相当だったようだ。

「うん、ならよかったわ。じゃ!」

自分から呼び止めたくせに、言うだけ言って踵を返しやがった。

用はなんだったんだと言おうかと思ったが、今朝の桜苑のもとを訪れた時の疲れががくんと来て、呼び止めるのも億劫でそのままにした。

黒藤の背中が遠くなっていく。

その後ろに付き従う無月の影。