「ああ」

「……一年ほど前から、とある方に師事されていると噂がありまして……」

「とある?」

「どなたかはわかないのです。ただ、お嬢様は週に一度帰宅される時間が遅くなりまして……お嬢様付きの者には、師匠が出来たと話していたようなのです」

「……それは今回の秋生の先行と関係があるのか?」

「ご当主様もご存知のことでしたので……誰とも知れぬ怪しい者に関わることをよしとは思っておられなかったでしょう」

(それも含めて、先んじたということもあるかもな……)

「ちなみにそれは、なんの師匠だったかわかるか?」

「は?」

「陰陽師の師匠なのか、別の芸事の師匠なのかとか……」

「……いえ、何もわかりません。お嬢様付きの者も、詳しくは教えてもらっていないと言っておりました」

(徹底して隠していたのか)

冬湖が頑固な性格なのはなんとなくわかっていたが、付き人にも教えないとは……あまり公に出来ない線か?

「わかった。冬湖嬢も、早く帰れるように促してみる。俺から接触があったことは秋生には隠す必要はないよ」

「お気遣い痛み入ります。旦那様も心配しておられましたので、御門様のお邸(やしき)でお元気であられること、ご報告いたしたく思います」

「……ああ、そうしてくれ」

それで、白桜は作夜見家の青年とは別れた。

心配しているということが、対面上なのか心からなのか……秋生に会えばわかるだろうか。

白桜が御門の当主とはいえ、まだまだ若輩者であることは変わらない。

それでも、年上だろうと退くわけにはいかない。

それが白桜の立場だ。

――そこでばったり逢ったのが、案の定黒藤だった。