「まあ、わたくしの出番ですか」

百合緋についていた天音を呼び出すと、天音は驚いた顔をした。

桜苑のところへ意識を飛ばしている間に、夜明けの時間になっていた。

白桜がそのままにしてしまった雨戸を閉め、白桜の傍で護衛をしていたのは無炎だ。

「邸内に知らぬ人間がいるとは思っておりましたが、そのようなことになっているとは……」

白桜の命で日頃から百合緋の傍にいる天音は、冬湖の一件を知らなかった。

百合緋へは華樹が当り障りない程度で話しただけだ。

「天音は嫌かもしれないけど、頼めるか?」

白桜の言葉に、天音はふっと笑った。

「いやなことなどありませんわ。白桜様のために身命を賭(と)すと決めた身ですもの」

「……できれば俺のために死ぬのではなく、生きてほしいのだけど」

「ええ。白桜様のために、生きますわ。涙雨殿が二度も狙われたとなると、早い方がいいですわね?」

「ああ」

――天音の助力をとりつけた白桜は、百合緋とともに登校した。

冬湖は家にいるが、見張りの式を置いてきた。

お庭の隅までぴかぴかにしますわ! と掃除に意気込んでいた。

昼休み、真紅と月音と一緒にいる百合緋を置いて(真紅に百合緋の護衛を頼むと視線を送ると、うなずきが返ってきた)、白桜はひとり四阿(あずまや)に来ていた。

長椅子に腰かけ、水鏡(みかがみ)で式を通して現在の御門邸内を見やる。

各所に置いてきたうちのひとつに冬湖の姿が映った。

(……すごい手慣れてる……)

今は客間の布団を干しているようだが、動作に無駄がないし、勝手がわからない様子なんて皆無だ。

(冬湖も、旧家の令嬢と言える立場なんだけど……作夜見はそういうとこ気にせず育てるのか?)

当主が長子の冬湖は、傅(かしず)かれる立場なはずだ。

それがどうだ、使用人のように動き回っている。

白桜というか、御門では家の雑務は式に任せてしまうがそれは、それが出来る技量のある術師がそろっているということだ。

作夜見は高位ではあるが、御門ほど大きくはない。

秋生が送ってきた文が正しいのか――秋生の目論見が、書いてあった通りのことなのか……。