桜苑の推測がすべて的を射ているわけではないだろう。
だが、はなっから否定するには白桜には根拠もなければ説得力もない。桜苑の方が近い気もする。
「そうさな。わたしもそれは否定できぬ。だがな、主殿。だからどうする?」
だからどうする。
桜苑は白桜に甘いほかのふたりの式と違って、容赦がない。
ここで尻尾を巻いて逃げ出すなど、それは白桜ではない。
桜苑がただひとりと認めた主殿ではない。
白桜は考える。
涙雨が倒れていたこと、そして霊力がなくなっていたこと。
冬湖が倒れていたこと、その記憶の曖昧さ。
そして二度も涙雨が倒れていたこと。
「……涙雨殿が霊力欲しさに襲われたとしたら、なぜうちの前に置かれた?」
――涙雨は空を飛ぶことが出来る、鳥の姿の妖異だ。
だから、空から落ちて倒れていてもおかしい可能性は低いと考えた。
だが、冬湖は人間だ。
そして御門別邸は何も人通りのない山の中にあるわけではない。
住宅街とは言えないが、人通りもある道に面していて、そこに倒れていた。
――倒れていたわけではなく、誰かが置いた可能性。
「置かれた……な。そうして何か得をすると考えるのが普通か……」
桜苑は返す。
(得をする……)
白桜も頭の中で反復する。
冬湖を御門と接触させて得をする、というのが一番考えやすい線だろうか。
御門――しかも、当主である白桜と。
(……いかん、そっちしか考えがいかない……タイミング悪)
折しも、許嫁の話が宙に浮かんだ状態の白桜では、御門との縁続きを狙う可能性を簡単に考えてしまう。
冬湖を――月御門に次ぐ格である作夜見から、御門が当主の花嫁を出すこと。
(……それにしては冬湖がびくつきすぎな気もするけど、強いられていたのならそうなるだろうか……)
「まあ、冬湖のことは置いておくか」
「……それでよろしいのか? 主殿」
桜苑の声が渋っているように聞こえる。
「いいよ。俺には『拒否』って手がある。じい様の命令で結婚を強いられても、俺は受け入れない」