「大丈夫だよ。あいつ何を思ったか、菓子折りを五箱も寄越したから。きっと、このためにうちにあったのだろう」
『じゃ、じゃあ、またお菓子を持ってこよう! 主様がここへ来る口実にもなるし、食べた恩は食べ物で返すぞ!』
翼をはためかせて喜ぶ小鳥。
口実を本人の目の前で言ってしまうので、華樹に険がにじんで結蓮は慌てた顔になったが、白桜は見なかったことにした。
「結蓮、任せた。華樹はひとつ頼み事がある。来てもらえるか」
「はい」
「はっ」
結蓮と華樹がそれぞれ答え、白桜は黒藤に式を飛ばすべく身をひるがえした。
「白桜様、頼み事というのは……」
離れの廊下を歩く白桜に、後ろからついていく華樹が声をかけた。
「口実だ」
「……は?」
白桜の返事はつれない。
華樹を振り返ることもなく離れを出て、そのまま母屋へ向かう。
「お前をあの場から離す口実。涙雨殿にあんな敵対心向きだしてどうする」
白桜に注意されて、後ろを歩く華樹は表情が険しくなる。
「……ですがあの式殿は、白桜様に言い寄る黒藤様の式です」
「言い寄るって……」
否定できない白桜だけど、否定したい気持ちなのは間違いない。
「事実ではないですか。同性同士どうのの話ではありません。それは些事です。許嫁もおられない白桜様に小路の若君が言い寄っている。それが問題なのはご承知ですよね?」
「………」
あー、だっる。白桜は脳内でうなった。
「本来なら黒藤様がこの家に訪れることすら――」
「あー、さっさと作夜見殿にも文出さないとなー。じゃ、俺行くわ」
「あ! 白桜様お待ちを!」
話が長くなりそうな華樹を振り切って、白桜は足早に去って行った。
「白桜様!」
華樹の声を背中に受けながら、白桜は心の底からのため息をついた。