冬湖ははっと肩を震わせた。一層うつむいてしまう。
だが、白桜は発現を撤回はしなかった。
重要なことだから。
「……わたくし、霊感がないのです。なので、陰陽師としてはひとつも役に立たないので……」
「わかった。すまないことを訊いてしまったな。もうひとつだけ確認させてくれ。家へは帰れるか?」
「―――……」
ぎゅっと、正座の恰好の冬湖は、膝の上のこぶしを握った。
答えることはなく。
白桜はひとつうなずく。
「把握した。少し、ここで休んでいくといい。帰ろうと思うまで」
「……えっ?」
冬湖が顔をあげる。
その顔は蒼白だった上に驚きに満ちていて、牡丹は心配になった。
白桜の提案することはわかるが、果たして作夜見の娘が受け入れるだろうか。
白桜は穏やかにほほ笑む。
「帰りたくないのを無理に返そうとは思わない。ここはそういう場所だ」
「え、あの、ですが――」
「うん?」
言いよどむ冬湖に、白桜は軽く首を傾げて続きを促した。
「わ、わたくし、能無しとはいえ作夜見の人間です。御門様のお邪魔をするなど――」
断ろうとする冬湖。
だが、白桜はそれにはうなずかなかった。
「困っている人を助けるのが俺たちの役目だ。冬湖嬢は今、困っているだろう?」
「………」
問われて、冬湖は黙るしかない。
白桜は一度まぶたを閉じた。
「だから助ける。それだけだよ」
白桜の言葉を聞いて一拍置いたのち、冬湖は深く頭を下げた。
「……申し訳ございません、御門様。少しだけ、ご厄介になります」
「ああ」
「掃除洗濯炊事、なんでもお言いつけください。ご厄介になる身の上ですので、なんでもいたします」
白桜は瞬いた。それから口を開く。