(………)

「俺のことをご存知とは、陰陽道作夜見家の方か?」

自分の名前を呼ばれたこと、そして冬湖が名乗った名前に覚えがあった白桜は、できるだけ穏やかな口調でたずねた。

「……はい。作夜見秋生(つくよみ あきお)が長女、冬湖です」

――作夜見秋生は、陰陽道作夜見流の当主の名前だ。白桜も面識のある人物。

「俺のこと、知っていた?」

「……父から聞いておりました」

冬湖の声は震えている。こういう態度に慣れている白桜は話を進めることにした。

「そうか……。冬湖嬢、あなたは御門別邸の門前で倒れていたそうだ。何があったか、憶えているか?」

「……憶えて……申し訳ありません、なにも……」

「本当に……憶えていないと?」

「は、はい……ももも、申し訳ありません、御門様……」

「なにか……あなたの身元を証明できるものはあるかな? 疑ってしまうようでこちらこそすまないのだけど……」

問われた冬湖は傍らのカバンから学生証を取り出し白桜に見せた。

そこには作夜見冬湖の名と学年、顔写真が記載されていた。

白桜は当主の秋生、そして後継者の中学生の少年とは会ったことはあるが、冬湖とは初対面だった。

「直前のこととは言わない。憶えている限りで構わないから、話してもらえないか?」

白桜がうながす。

冬湖が委縮しきっているのでは何も進まない。少しでも情報が必要だ。

冬湖はうつむき加減で話し始めた。

「はい……。その、わたくし………家で父と言い合いになってしまいまして……それで、家を飛び出してしまったのです……」

「……うん」

「そのまま……どことはわからずふらふらと歩いていまして……人の多い場所を歩いている時、空から黒い小鳥が降ってきました。ええと……憶えているのは、そこで終わっています……」

「そうか……」

黒い小鳥、とは、涙雨のことだろう。

正体なく歩いていて、涙雨と出くわしたところで意識を失った……?

「冬湖嬢、ひとつ失礼な質問になってしまうかもしれないが、確認しておきたい。あなたから霊力があまり感じられないのだが、それにも何か理由が?」