門から一番近い離れに運ばれた女性には牡丹が、涙雨には結蓮がついていた。

華樹に呼ばれた白桜は、涙雨のところへは華樹をやって、自分は女性の部屋へ向かった。

「牡丹」

「あ、白桜様……」

八畳の和室へ入ると、中央に敷かれた布団に目を閉じて横になった女性と、その向こう側に牡丹がいた。

白桜の姿を見て、安堵の息をつく。

「様子は?」

「目覚められません。脈や呼吸は異常ないのですが……」

「そうか……」

白桜も、女性の首や手首に手を添え、脈があり体温があることを確認した。

仰向けになって胸が上下しているので、呼吸も問題ないようだ。

「見つけたのは牡丹だと聞いたが、わかる範囲のことを」

「はい。いつもの郵便の音がしまして取りに表に出ましたら、この女性と黒藤様の式殿が倒れておりました。ほかに通行人はおらず、いつも郵便が届く時間でもないなと不思議でした。そのまま華樹と結蓮を呼んで、ここへ」

「……わかった」

少し強制的ではあるが、意識を取り戻せるか白桜は確認してみることにした。

女性の額に手をかざして、小さく祝詞(のりと)を唱える。

詠唱(えいしょう)が終わってしばし待つと、女性はうっすらと目を開けた。

それを見た牡丹はほうっと息を吐いてから、ぼんやりと瞬いている女性の顔の前に手を振った。

「大丈夫ですか? 話せますか?」

「………はい……」

女性の声はか細く消えそうだった。

それを見た白桜が、今度は女性の喉元に手をかざす。

白桜が手を離すのを待って、牡丹はまた声をかけた。

「わたしは月御門牡丹と申します。お名前を教えていただけますか?」

「わたくしは……作夜見冬湖、と……」

言ってから、女性ははっとした顔になって体を起こした。

そのまま布団に正座した女性は、布団に両手をついて深く頭を下げた。

「ももも、申し訳ありません……! ひと様にご迷惑をおかけしてしまい……!」

「気にしなくていいですよ。あなたに怪我や不調はないですか?」

今度は白桜が答えた。

女性は――作夜見冬湖と名乗る女性は、はっと顔をあげた。

白桜をまじまじと見る。

「……月御門の、白桜様……?」