白桜を『白桜様』と呼び顔面蒼白といった様子で慌てているのが、陰陽道・神崎流の娘、神崎月音(かんざき つきね)で、『月御門』と呼びかけたもう一人が月音の彼氏で許嫁になったばかりの小田切煌(おだぎり きら)だ。
白桜は並んで立つ二人を見た。
「……二人は許嫁がいていいな……」
「は? いや、その話持ち出したの、月御門と黒藤先輩だろ。本当どうした?」
煌が月音の許嫁になった件は、白桜と黒藤の主導によるものだ。
そんな煌たちに羨ましいもなんもないだろう、とは自分でも思う白桜。
「いや……ちょっと俺の結婚問題が表面化してきちゃって……少し困ってる」
「あー、お前当主だから後継者とかいるんだっけ」
「そうなんだ……」
月音と煌は、白桜が元は女性で、今は性別がない状態ということも知っている。
白桜と黒藤、そして百合緋の熱烈な信奉者である月音はあわあわしている。
「は、白桜様にそのような問題が……!」
「落ち着いて、月音。正直、どうすりゃいいのかわかんない問題だから足掻きようもないというか……」
「難しいよなあ……」
煌が同意してくれたのを聞いて、白桜はうん、とうなずいた。
下手に慰められなくてよかった。袋小路な白桜は、今誰かに答えをもらっても素直に受け取れはしなかっただろう。
「白桜様! その、私たちにお役に立てるかわかりませんが、何かお手伝いできることがあったら仰ってください。白桜様には並々ならぬ恩義がありますからっ」
ふんす、とこぶしを作って力説する月音。
白桜たち三人を推しだと言ってはばからない月音は、彼氏ができてもそれは変わらないらしい。
そして彼氏はもうそれに慣れてしまって、つける文句もないようだ。