「月御門くん、あ、あの、これ、もらってください……っ」

呼び出しを受けた白桜は、顔を真っ赤にさせて手紙を差し出してくる同級生の女子生徒を前にして困っていた。

休日の昨日、逆仁から許嫁の話を出されたばかりで、やはり言霊は寄って来るな……と、感慨にふけってしまう。

「う、うまく言えないと思って、書いて、あるので……よ、読んでくれるだけでも――」

「河内(こうち)さん、もしこれが恋文なら、俺の返事は決まってしまっているんだ」

白桜の封じた言葉に、女子生徒はびくりと肩を震わせた。

そして傷ついた顔になる。

白桜が告白されるたびに同じ文言で断っているのを知っているのだろう。

――今は家のことが一番で、恋愛をする気はない。

という、定型文のようなものだ。

期待を完全に切ってしまう言葉が言えずそうなってしまう。

期待を持たせていてはだめだと自戒しながらも、突き放す言葉が言えない。

白桜の優しさで、愚かさだった。

結局告白してきた女子は、泣きそうな顔で引き下がった。

それでも、これだけは受け取ってほしいと言うので、白桜は手紙を受け取った。

去っていく女子の背中を見つめて、ちりちりと積もる罪悪感。

自分はいつまでこんな所業を重ねていくのだろう。

こんな自分を理解して、それでもいいと言ってくれる存在が、黒藤以外に現れることがあるのだろうか。

……黒藤に理解してもらったところで、奴は問題しか起こさないのだが。

「はあ……」

思わずため息が出てしまったところへ、最近仲良くなった二人が通りかかった。

「月御門? なんか疲れてるけど大丈夫か?」

「白桜様! な、何か学内で問題でもありましたか!? 修行中の身ですがお役に立てることがあればあああ」

「そういうことではないよ、月音。心配かけてすまない、小田切」