「……小路の当主専任に関して、俺から口を出すことはありませんので何も言えませんが……」
幼い頃から知った仲の逆仁に対してつい一人称が『俺』になる白桜。
逆仁が、祖父の白里と仲がよかったこともあって、白桜にとってはもうひとりのおじいちゃんみたいな感覚だ。
「黒藤様をお育てしたのは私です。幼き頃は白桜さんとは兄弟のように見えておりましたが……なんかこう、いきなりああなってしまったんですよね……」
ため息をつく逆仁。
白桜は幼い頃の記憶が曖昧で、黒藤のことを『にいさま』と呼んでいたと天音から聞かされて知ったくらいだ。
……あれがにいさま? 不思議に思う白桜だが天音は、『小さな頃は黒藤様もしっかりされておいででした。これなら小路流も安泰だろうという声を、わたくしも聞いたことがあります』と、すぐに黒藤の首を落とそうとする今の対応からおよそ考えつかない評価をしている。
「なにか……きっかけでもあったのでしょうか?」
「わかりかねます……。理由は頑として『白に惚れたから』ですから……。白桜さんこそ、わかりませんか?」
「俺の記憶にある限り、黒ってあんな感じで……離れる前はもっと控えめだった気もしますが……」
小路流の後継者問題で、天龍に引っ込まざるを得なくなった黒藤。
そのことを告げられた時口づけられているが、びっくりした白桜は殴ることも出来ずに呆然とするだけだった。
その間に、黒藤は白桜の前から姿を消した。
なので斎陵学園での再会は、本当に何年振りだろうというものだ。
今度はぶっ飛ばせたけど。
「逆仁殿は黒が継ぐことをお望みですか? 真紅ではなく」
白桜の質問に、逆仁はそれまで手にしていた湯飲み茶わんを机に置く。
「……迷います。真紅嬢は霊力を取り戻して日が浅い。どれほどの力を秘めているのか、過去の転生と直接会ったことのない私にはわかりません。逢ってみて、並ではないことはわかりましたが……黒藤様を上回るのかどうか、それは重大なところです。そしてもうひとつ肝心なのが、真紅嬢にその意思があるかどうかです」