「……白桜さんに関して総て得心がいったわけではありませんが、黒藤さん、白桜さんのこと大好きですものね」

「それはもう。白さえいれば世界の総てが壊れても構わない」

「それは小路の者としてやばい発言じゃありあませんの?」

神宮美流子に胡乱な目で見られた。

黒藤はへらっと笑う。

「俺がやばいのはみんな知ってます。鬼の力を持っていながら小路の当主になる気もなければ、男の白桜に嫁嫁言ってるやばい野郎だって」

白桜の、周囲からの現在の認識は男当主だ。自分でも『俺』って言っている。

だが実のところ、白桜は女に生まれながら女性(にょしょう)を奪われているため女ではないが、男の体というわけでもない。性別がない、と言い表すこともできよう。

白桜の亡き母である白桃(はくとう)の功罪。

……それがゆえ、白桜には性別がない。

「黒藤さんの目的がそれであってもなくても、きっとわたくしたちの利害は一致しますわ」

「いや簡単にヒトの目的消すなよ。……どういう意味だ?」

「わたくしの目的は、わたくしの大事な人たちが幸せに生涯をまっとうすることですわ。在義さん、咲桜、夜々ちゃん……それから、不肖者の弟。弟はアレなんで自分でどうにかするでしょうから放っておきますけど」

弟への言葉が温度差ありすぎる。

黒藤は半眼になる。

「辛辣だなおい。……でもまあ、ほんと貴女の弟はアレですからね。……ってことは、あんたはわかってんですね?」

神宮美流子の弟が何者か。

神宮美流子はうっすらと笑った。

「もちろんですわ。死ぬときは忘れていましたけど」

「………」

死ぬときは、か。

神宮美流子の弟がアレな存在であるのは変わらないけれど、黒藤たちにとって害悪がないため、どうにもできないでいる。

國陽(くにはる)や姫に仇なす存在ならすぐにでも対処するんだけど……いかんせん、姫の唯一の理解者になってしまっている。

神宮美流子の弟に手を差し向けたら、黒藤が姫にすぐさま首をカッ飛ばされるだろうくらいには。

「現在確認できる、あの方の唯一の分魂(ぶんこん)……。そしてあなたの娘は、そこからさらに分かたれた魂。そりゃさだめは反発し合って、本人たちが惹かれ合うのも納得だ」