「風佳様がどつくのは斎宮様だけでしょうに」
「ははっ」
「違いない。では、斎宮様。失礼します」
「お前たち本当に失礼なことを言いおって。ありがとうな」
人々が丘をくだって帰っていく。
「さて――」
くるりと、斎宮と呼ばれた女性が振り返る。
唇の端があがって、微笑んでいるように見える。
黒藤は白桜を護るように横に腕を差し出した。
「あたしが勝手に呼んでしまってすまなかったな。あたしは月天宮の斎宮で、白巫女(しろみこ)と呼ばれている。君たちの名を聞いても?」
「……影小路の黒。こっちは、月御門の白」
白巫女という呼び名が名前そのものではないだろう。
ならば、自分たちも警戒して本名は名乗らない方がいい。
影小路と月御門の名を月天宮の者が知っているかはわからないけど、少なくとも小路と御門は、月天宮および斎宮の名は知っている。
――真なる主として。
「ほう、守護者と門番の家の子たちだったか。きみはその使役といったところか?」
黒藤たちを見てから、無月を見る斎宮。
……守護者と門番という立場を知っているのか。
黒藤は右手を左胸にあてて、片膝をついた。
「にいさま?」
「月天宮の斎宮様。お目にかかれて光栄です。失礼をお詫びいたします。わたしたちはここがどこだかも知りませんでした。本当にわたしたちを呼んだのが斎宮様ならば、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「殊勝(しゅしょう)だ。君はいくつだ?」
「四つになります。白お――白は三つです」
「その年でそこまで出来るとは……守護者の家は厳しいと見える。きみは、……はく、だったか。あたしの白とおそろいだな」
「へっ? はわっ」
「白!」
斎宮が白桜を抱き上げた。
「落としたりしないから心配しなくていいよ。ちょうどあたしのところに、君と同じくらいの娘がいるんだ。面差しも君とよく似ている」