「何をです?」
「私にこれを教えてくれた理由です」
と、水鏡を、手を握ることで消す神宮美流子。斜めに黒藤を見上げてきた。
「貴方にとって私はただの邪魔ものですわね?」
「………」
「神宮の末(すえ)でありながら華取に入り、血は繋いでいないとはいえ子を残し、華取の生き残りには傍にいる人がある……。……何をお考えです?」
――これが、本来の神宮美流子なのだろう。
生前の神宮美流子は記憶喪失だったため、己が神祇であることを忘れていた。
もちろん、華取がどんな家かも知らずに嫁いだのだろう。
夫だった者を、『華取の生き残り』と呼べるような性格なのが、神宮美流子なのだろう。
「……朝間夜々子の守護霊になったのは、朝間夜々子を護るためでしたか――俺から」
「それこそご想像にお任せしますわ。貴方が答えてくださるまでは」
……神宮ってこういうところがあるからいちいち七面倒くさい。まあ面倒じぇねえ神祇もいねんだけど、と脳内で悪態をつく黒藤。
「……貴女が俺にとって邪魔者、ってわけではないんですよ。ただ、貴女は最後の神宮だ。望めば現世に介入出来る。水鏡でも教えてこっそり現世を見守るくらいしてたら、俺の邪魔をしないかなって希望的観測です」
「なるほど。承知しましたわ。助けていただいた身です。黒藤さんの邪魔は致しませんわ」
「……俺以外の邪魔はゆるしたわけじゃないですからね?」
「白桜さんとかですか?」
「出来たら白には関わらないでもらいたい。――貴女は白が男ではないとすぐに気づきましたよね?」
「過大評価ですわ。すぐに、とは気づいていません。なんとなく違和感を覚えただけですわ」
「まあ、そうやって気づけるのも神祇だからなんですけどね。最近小路に入った俺の従妹も、なんとなくで白が女だってわかっていましたし。話戻しますけど、俺は白がほしいんです。男だろうが女だろうがどっちでもいい。白桜がほしい、そのために俺は手を尽くす。それだけだ」
女性(にょしょう)を奪われた陰陽師、月御門白桜。月御門が当主にして、月をその身に宿した背徳の陰陽師。