「そういや華樹。俺のこと呼び捨てでいーよ? 同い年じゃん?」

「怖いこと言わないでください。同い年でも立場ってあるんですよ」

「お前も頭カタいなー」

「そういう問題じゃないんですよ。俺も黒藤様もいにしえの約束がある一族の者です。そう簡単ではないんです」

「ん? じゃあ俺と友達になってもいいってこと? 今の裏返せば簡単にいかなくてもやれたらいいよ、ってこと?」

「どこまでポジティブなんですか黒藤様は……」

はあ、とため息をつかれてしまった。

黒藤は、これでも同い年ってことで華樹はちょっと親近感あったのだが……まあ、小路と御門だし仕方ないところもあるか、と頭の中でカタをつけた。

あ、もう学校着いちゃった。

「今日御門邸にちょっと行くから、白に言っておいてくれるか?」

「……承知しました」

「うん、頼むわ」

華樹とはクラスが、階も違うので玄関で別れた。

じゃーなー、とぶんぶん手を振っていると、行き交う生徒たちが変なものを見る目で見てきた。

珍獣扱いは慣れているので気にしない。

さて。涙雨は怪我をしていなかったし、その痕跡もなかったことがわかった。

「――烏(からす)」

『応じよう』

一限目の休み時間、黒藤は渡り廊下を通ってひとけのない別棟へ来た。

山に面した窓を開けて、右腕を差し出す。

そこに、普通のカラスより一回り大きな烏が姿を見せ停まる。

『して、主殿(あるじどの)。何用か』

烏が口を開くと人の言葉が聞こえる。

「お前ら、涙雨に何かしてないよな?」

黒藤は、己の腕に停まる烏に問う。

『我ら一葉(いちよう)の烏天狗、主殿に忠誠を誓った身。主殿の式に危害は加えまい』

「なるほど?」

烏天狗は、以前真紅を襲った妖異(ようい)だ。

黒藤はシメるのついでに使役に下した。

一葉というのは黒藤が使役にした烏天狗集団のこと。

人間でいうところの、集落とか一族みたいなくくりになる。

この国には、ほかの烏天狗の集まりも幾多とあるのだ。