「華樹? どうした」
「「月御門先輩?」」
声を揃えたのは真紅と架。
華樹が真っ青なので駆け寄ると、がくんと膝を折った。
「お、おい? 華樹?」
白桜の声が心配げに揺れる。
「俺には……あのお方の考えていることがわかりません……!」
黒、なんかやったな。
華樹が『あのお方』なんて呼び方をするのは、先代の白里か小路流次代の黒藤くらいだ。
それに今朝、黒藤は華樹を探して先に戻った。
「華樹、とりあえず外に出よう」
力のない華樹を促して、教室から出る。
斎陵学園の庭園にはいくつか四阿がある。そのうちのひとつに華樹を座らせた。
「黒がなんかやったか?」
「はい……取り乱して申し訳ありません、白桜様……」
「気にしなくていい。何があった?」
「その……朝からたびたび俺のところにやってきては機嫌取りのような真似をされまして……小路の若君が俺にそんな態度をとるものだからみんなもびっくりしてしまって、遠巻きにされていました……」
ああ……あいつ、友達少ないからな……。
悟った目になる白桜。
礼の伝え方がわからなかったのだろう。
「何が……あったんですか? あの方は……」
華樹が憔悴しきっている。
黒藤は友達が少ないだけで一人を好む性格でもないし、本来周りが扱いに困る性格でもない。
ただ、強すぎるだけだ。
強すぎるだけ、で畏怖されているのだが。
白桜は額を押さえた。
「……涙雨殿を助けたのは華樹だから、華樹に礼を言ってくれ、と俺が言ってしまったんだ……すまない」
華樹を追い詰めたの、自分だった。
頭を下げて謝ると、華樹が慌てて立ち上がった。