「ちょ、あやちゃん! ニュース見た!?」
友人のユウナからその話題が振られたのは、登校してすぐのことだった。
背負っていたリュックを机の上に降ろした状態で、「見たよ」と短く返事をする。彼女の隣で、幼馴染のモモコが「あんた声でかい」と呆れている。
「死んでるとか言われてたけど、生きてんじゃん! ってなった! あやちゃんに絶対報告しないとって!」
「報告って大げさな」
「大げさじゃないよ! あやちゃんの大切な人なんでしょ? 生きててよかった本当。あたし全然仁科くんと仲良くなかったのにうれしくなったもん!」
人口二万の小さな町じゃ、誰がどこの高校に行ったとか、誰が高校を中退してどこで働いているとか、誰と誰が付き合っているとか、そういった情報は全部筒抜けだ。おまけに彼に関するニュースは一度全国に放映されている。
だから、ユウナや私にその話が流れてきたことは、べつに不思議なことじゃなかった。
「はあ……自殺と行方不明が同義とか言ってた人の発言とは思えないよねホント」
「ちょっとぉ! モモちゃんなんで今そんな意地悪なこと言うの⁉ あたしが無神経すぎてめっちゃ落ち込んでた時に励ましてくれたくせに!」
「えー、いつの間に? 私その話知らない」
「言ってないからねえ」
けれどそれは、前までの私じゃ気づけなかったことだ。
ユウナが自分の発言を振りかえって反省していたことも、それをモモコが励ましていたことも私は知らなかった。
実際のところ、世の中、知らないことのほうが圧倒的に多いような気がする。
「やっぱさあ、噂もニュースも当てになんないんだ。あたしすーぐ耳に入った情報信じちゃうからなー……生きづらい」
ユウナが枝毛をちぎりながら言う。
生きづらい、とか、いつも元気はつらつなユウナでも思うことがあるらしい。きっとモモコにも、言わないだけでそう思う瞬間があるのだろう。私にもあるから、わかる。
「多分、この世に本当だって確信できることなんてないんだよね」
「ねーホント」
「結局、自分が信じたいもの信じるのが一番なんだよ。本当のことなんて本人しかわかんないんだから。ねえ絢莉?」
同意を求められ、私は頷いた。妥協じゃない。
私は今、確かに本音で息をしている。
「私は思ってたよ。──仁科くんは絶対生きてるって」