「あのさ、仁科」


青砥の声にハッとした。トレイに載せた四五〇円はレシートへと姿を変えている。


「他人の僕がいうのも変な話だと思うんだけど……、わかり合えない人のこと、わかろうとするだけでも違うのかもって思う」
「……はあ?」
「僕も最近気づいたんだ。だけどさ、言わないだけで、みんな意外と色々抱えて生きてるみたいだから」



久しぶりに会った、まともに話したこともない同級生にそんなことを言われるなんて思っても見なかった。急に話しかけてごめんと謝られ、曖昧に返すことしかできない。



言わないだけで、意外とみんな色々抱えて生きている。


そんなこと言われなくてもわかっている。
おれにだって、言わずにいることがある。翼のことが本当はずっと嫌いだということを母に伝えなかったのも、あいつをずるいと思っていたことも、おれ以外の誰も知らない。


言ったところでどうせわかってもらえない。
他人にわかったように話されたくもない。

仮に誰かに話したとして、わかってもらいたい人に分かってもらえなかった時が怖いから。

だから、言わないだけだ。


翼も、そういう気持ちを抱えていたのだろうか?

たとえわかり合えなくても、わかろうとしていたら───おれたちはもっと仲良くできていただろうか?


「ありがとうございました」


レシートを握りしめ店を出る。「またお待ちしております」と、青砥の控えめな声が遠く聴こえた。











「わはっ、アオハルくんすっごい緊張してたね。会話レベルが二だった」
「やっぱり僕人と関わるの苦手だなって思いました。なんか、自分のこと棚に上げて説教臭いこと言っちゃったし」
「いいんだよ。人間関係とかべつに得意になろうとしてなるようなことでもないしさ。他人のために無理することでもないでしょ」
「わかろうとしてもわからないことばっかですね人生」
「アオハルくんも「人生」で括るようになったかあ、いいねえいいねえ」
「すごいうざいんでもう喋らないでもらえます?」
「なははっ。でもねえ、すごい良かったよ、さっきのアオハルくん。さっきの男の子にも響いたんじゃないかなあ」
「どうですかねえ…」