驚きのあまり声が出なかった。
絶滅した存在を召喚する。それも、憧れだった《《者》》をだ。
「それって、全ての恐竜を召喚できるのか?」
「そうだよ!!でも、注意して欲しいのは召喚できる恐竜は、卵から孵化した恐竜か、化石から復元した恐竜しか召喚できないからね!」
「まてまて⁉もしかして、恐竜の卵と化石を手に入れないといけないのか?そんなの持ってないぞ?」
「大丈夫!そのための『ショップ』スキルだよ!!試しに『ショップ』スキルをタッチしてみて?」
取り敢えず言われた通りにタッチしてみた。すると画面が二つに分かれ、片方に神様の画面、もう一つがショップの画面になった。何故か神様がドヤ顔をしている。ちょっとムカつく。
ショップの画面はこんな感じに表示されている。
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恐竜マート
所持金 5白金貨6金貨73銀貨44銅貨
・恐竜化石
・恐竜の卵
・サドル
・ROCK MAN
・食料
・日用品
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「どうだい凄いだろ!!恐竜関係の物以外にも、少しは元の世界の物も買えるようにしたんだよ!!」
未だにドヤ顔をしているが、その前に説明して欲しい。
「まず、この所持金ってなんだ?どこからのお金だ?
「あー、それはね!前の世界で君が持っていた全財産を、こちらの世界の通貨にしたんだ!一応、取り出すことも出来るよ!」
物を買う機会がほとんど無かった為、自分の貯金も正確には覚えてはいないが、それなりに持っていたように思う。
その後、貨幣価値について聞いたところ、銅貨1枚=100円、銀貨1枚=1000円、金貨1枚=10万円、白金貨1枚=100万円らしい。という事は大体、567万7400円ってことか。
説明が終わった後、それぞれの店?テナント?を見ていく。
説明された通り、恐竜化石と恐竜の卵には全ての恐竜の物が揃っていた。ただ、安い物でも白金貨2枚は必要な為、簡単には買えない。
次はサドルを押してみた。サドルは恐竜の大きさによって値段が大きく変わり、オプションでバックや座席を増やせるらしい。トリケラトプスやステゴサウルスに取り付ければ、大きな荷物等も運べるかもしれない。
一番気になる店は飛ばして、食料や日用品の部分を調べる。
食料の欄には、ジャガイモやネギなどの食材の他、かつ丼やすき焼き等、調理済みの物まで買えるみたいだ。
日用品の欄は、タオルや歯ブラシ、シャンプー等生活に不自由無く暮らせそうだ。何より聞いた話だと、この世界は異世界定番の中世ぐらいの文明らしい。これなら、日本産のシャンプーや料理を売れば、大儲け出来そうだ!!
まぁ、そんなうまい話があるわけないよな。
日本産がっぽり計画は中止となった。
どうやら商売の神様との取り決めで、ショップで買った物を他の人に売ったり、譲る事は禁止らしい。ただ、食材や調理済みの物に限り、食べさせる事は可能らしい。要は、『お金を取るな』ということだ。しかも売られている値段は全て、通常の値段の2倍かかる。高過ぎだろ!
ふと気になって、質問してみた。
「この世界に牛や鶏などの動物は居るのか?」
もし、牛や鶏が居れば、料理を作って売れるかも。
「残念だけど、この世界には動物が存在しないんだ。動物の代わりに、魔物が食材として利用されているんだよ。例えば、さっき話したテイマーの人達が、コカトリスとかレッドブルを使役して、繁殖させたりね。」
なるほどなぁ。それなら、さっき見たウサギみたいな奴も魔物なのか。ただの動物なら殺しずらかったのだが、魔物なら大丈夫そうだな。『郷には郷に従え』と言うもんな。この世界じゃ、手を抜いた瞬間死ぬかもしれないんだ。
コカトリス、絶対強いじゃんか!レッドブルとか、翼を授けてくれないかなぁ。
取り敢えず、商売は無しの方向でいこう。
最後に、気になったこの『ROCK MAN』を押してみようか。
「なあ、これ何で『ROCK MAN』って名前なんだ?色々まずくないか?」
「青い方のロック『ピー』では無いから安心して!押してみたら分かるから!!」
さっきから、『ピー』って音入ってるけど、神にも著作権ってあるのかな?自分で入れてたらバカみたいだけど。
そろそろ、日も落ちてきた為、早く神様との会話を終わらせないとまずそうだ。
『ROCK MAN』を押してみると、そこには化石を掘ったり、削ったりする為の道具や化石や卵から恐竜を復元、孵化等をする装置があった。
「自分で化石を掘らなきゃいけないのか、削るのとか難しそうだなぁ。」
初期装備と言えばいいのか、最低限の道具は無料で貸し出ししてくれるらしい。
「なるほど!!『ROCK MAN』って、発掘者とかの意味合いで付けられたのか。」
「他にも、『ワークマン』を参考にしたよ!!」
まさかの『ワークマン』だった。まぁ、ほとんど同じようなものか。
後、『ピー』が入って無かったぞ今!『ワークマン』は大丈夫なのか?
まずい、日が完全に落ちてしまう。魔物が蔓延る森を、一人で夜を明かさなきゃいけなくなる。せめて、恐竜が傍に居て欲しい。
「今の所持金で、即戦力になる恐竜を買わなければ!!」
「大丈夫だよ!最初だけだけど、この恐竜のうち一匹を無料でプレゼントするから!!」
そう言って映し出された画面には、3匹の恐竜が映し出されていた。
画面に映し出された恐竜はこんな感じだ。
まずは『トリケラトプス』だ。
この恐竜は結構有名だろう。三本の角を持ち、全長9メートル、体重12トン程の恐竜だ。草食で、角竜という区分では最大級の大きさだ。
次は『カルノタウルス』だ。
二足歩行で、目の上にある円錐型の角が特徴だ。全長7.5メートルから9メートル。体重約1.5トンほどの恐竜だ。大きさに比べて軽量で、肉食である。
最後は『パラサウロロフス』だ。
特徴として、頭頂から後方に伸びる鶏冠《とさか》がある。全長約10メートル。体重約4トン程の恐竜で、草食である。
「んー、個人的にはカルノタウルスなんだけどなぁ。いきなり肉食の恐竜は、はっきり言って怖いしなぁ。パラサウロロフスは戦えるのか?やっぱり無難にトリケラトプスかなぁ。」
「あっ!そういえば説明してなかったね!さっき言った通り、召喚した恐竜は君の指示に《《必ず》》従うよ。そして、召喚される恐竜は、ちょっと強化されているんだ!」
「強化?」
「そうなんだよ!そもそも草食恐竜や臆病な恐竜を戦わせることは、お互いに酷じゃない?だから、恐竜に強化を施すことで、単純な戦闘力の強化の他に、恐竜自身に明確な意思が宿るんだ!そうすることによって、君が危険に陥った場合や敵を察知した時、少しだけ自分の意思で行動することが出来るんだ!!」
「なるほど!たとえ草食恐竜だとしても、自分から積極的に攻撃することが出来るのか。」
「そういうこと。そもそも君に必要なのは、戦う為の道具じゃなくて、一緒に冒険をする仲間でしょ?」
神様の言葉が胸に響いた。
そもそも俺が恐竜に会いたい、化石を見つけたいと思ったのは、ゲームの主人公と恐竜の触れ合いが羨ましかったんだ。一緒に戦う仲間みたいな存在が。
「そうか!!だから!」
「そうだよ!君の選択肢にした三匹の恐竜は、『恐竜キング』の最初に出てくる三匹だ!」
通りで悩むわけだ。
何回も何回もゲームやアニメなどで観た恐竜だったからか。
「これが僕から送る、御三家ってところかな。」
「・・ふふ、ポケモンかよ。」
少し悩んだ後、結論を出した。
「よし!決めた!俺はトリケラトプスを選ぶ!」
「本当にその子で良いの?」
「おう!俺が初めて『恐竜キング』をやった時も、こいつだったんだ!」
「分かった!!じゃあ、トリケラトプスを選んだ後、スキル名を叫んでね?」
「スキル名ってこれか?『ダイナソー』ってやつ。」
「そうそれ!ちゃんと叫ぶんだよ?じゃないと召喚されないから。」
「マジか⁉この歳になって『ダイナソー』って大声で呼ぶのか!」
「大丈夫!この世界の人も魔法を使う時、叫んでるから!」
この世界の人は声が枯れないのかな?
時間が無いので、急いで『トリケラトプス』を押し、スキルを叫ぶ。
「「ダイナソーー---!!!」」
何故か神様も叫んでいたが。
何故か神様と一緒に『ダイナソー』と叫んだ後、目の前の地面に魔法陣が現れ、七色に光る魔法陣の光が強くなり、思わず目を瞑った。
約5秒が経ち目を開けると、目の前に角があった。またこれか。
少し後ろに下がり、全体像を見る。
角が真っ黒なこと以外は図鑑通りの姿だ。なんだあの角。病気じゃないよな?
まじまじとトリケラトプスを見ていると、神様から話しかけられた。
「どうだい?実際に恐竜を見た感想は?」
「未だに現実味が無いな・・。まさか生で観れるとは。そういえば、何で角はあんなに真っ黒なんだ?」
「あー、それは強化のせいだね。試しに『鑑定』を使って見てみるといいよ!」
『鑑定』はここで使うのか。
「『鑑定』」
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名前
年齢 0歳
種族 トリケラトプス
身体Level 1
体力 600
魔力 400
運 30
スキル:『突進』『自動回復』『炎熱耐性』『スイング』
レアスキル:黒武装・纏
称号:『マサーシーの恐竜』『思いやり』
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「えっ⁉強くね?強さの基準がよくわかってないけど、多分強いんだろうな。」
「平均的な冒険者ぐらいの強さはあるね。君のステータスは、戦闘に従事しない人達の基準値に合わせたからね。これなら、この辺りの魔物なら余裕で倒せるね!」
俺、弱くね?このステータスで生きられるかなぁ。そんな事を考えていたら、トリケラトプスが俺に寄り添ってきた。
「そうだよな、お前がいるもんな!」
角を撫でながら感謝の気持ちを伝える。優しい奴だ。
「ちなみにその子、女の子だよ?」
下手なこと言わなくて良かったぜ。一発で即死だったぞ。
「そろそろ、僕も神界に戻んないと!」
どうやら時間らしい、結構長い間話してたな。
「神様、色々とありがとうな!!」
「こちらこそ、こんなにも楽しい気持ちになれたのは初めてだったよ!」
最後に、聞いておきたい事がある。
確信があるが、一応本人から聞いておきたい。
「最後に一つ。あんたは《《何の神様》》なんだ?」
話の途中に出てきた『商売の神様』、神様にも役割があるとして、こいつはおそらく。
「君が気付いている通り、僕は『恐竜の神様』だよ。地球で言う、ジュラ紀や白亜紀の時代に生まれた神様さ!本当はもっと、かっっこいい姿をしていたんだけどね、神様は信仰する人達の思いの分、そのまま神様の力になるわけ。力が無い神はこんな姿になっちゃうんだ・・。」
少し悲しそうな顔をしながら、そう答えた。
恐竜が絶滅してから約2億5000万年。こいつはそんなにも長い間も恐竜を愛し続けた。他の神様との交流があるかは分からないが、力の無い神の扱いは酷いものかもしれない。
人間の基準で考えたら駄目なのかもしれないが、力無き者はいつしか虐げられるものだと、俺は考えている。
「大丈夫だ!俺はあんたを信仰する。元々、無神論者の俺が言うんだ。自身持てよ!」
「ふふっ。ありがとう!君もこれからの旅、気を付けてね!」
そう言うと、神様の画面が消えた。時間ギリギリだったのだろう。
「ああ、相棒がいるから大丈夫だ!また会おう!」
日も完全に落ち、誰もいなくなった森でそう呟いた。