さすがにちょっと傷付いた黒藤だ。

見た目も、白桜の好みでなければどんな容姿でも意味がない。

当代最強とかいうヤツだって、俺より強い奴なんてすぐ現れる、というのは黒藤のスタンスだ。

いつまで黒藤がそれでいられるかわかったもんじゃない。

黒藤にとって自分の見た目なんて、白桜にとっては無炎と無月そっくりだと思われてるんだろうなあ程度の認識でしかない。

白桜は――御門流は――強さに固執する流派でもない。

強さが絶対の小路と違って、伝統を重んじる方だ。

白桜にとって強さは必要だけど、それほど意味のあるものでもない。

……ちょっと待て。自分の長所で、白に好かれる要素が欠片もない……。

「……百面相得意ねえ」

今度は項垂れた黒藤を、縁は呆れたカオで見て来る。

「ゆかりどの! おかわり!」

……涙雨は落ち込む主を見もせず、元気に三杯目を要求している。

……涙雨の食い扶持(くいぶち)の分も仕事しなきゃな、と落ち込む頭の片隅で考える黒藤。

涙雨は霊力と妖力が桁外れで高いから、力の消費も激しい。

人型をとるようになってからは『食事で補給する』ことを覚えた。

その前は、ひたすら眠るしか力の回復の方法がなかったらしい。

人間で言えば基礎代謝が異常に高いと言えばいいのだろうか。

何もしていなくてもエネルギーを消費しているから、とにかく寝て回復するしかない。

そうすると活動時間が制限される。

黒藤の式に下ってからは、主である黒藤からある程度の力の補給も出来るし、人型を取って食事で回復する方法も覚えたから、動き回れる時間が多くなったそうだ。

今まで眠ってばかりだったのを取り返すように、小鳥の姿で散歩して歩くのが好きだ。

無月は年黒藤の傍にいるけど、呼んだら来ることを条件に涙雨は自由にさせている。

時空の妖異を式にしようなんてアホなこと考えるヤツも少ないだろうから、祓い屋や術師に会っても大丈夫だろう、と。