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「黒ちゃん! ご飯食べるときは新聞読まないの! 行儀悪いよ!」

「今しか読む時間ねーんだよ」

「どこのオッサンよ!」

朝。学校に行く前、朝飯を食っているときに響く縁(ゆかり)の怒号。

無月は戦闘時以外は隠形(おんぎょう)しているから、今いるのは実質俺と縁だけだ。

縁は名前の通り縁(えにし)の妖異。

戦い向きではないから、常に人型を取って家の色々を取り仕切ってくれている。

今日はおふしょるだー? のシャツに、丈の短いズボン(しょーとぱんつ?)の格好で、見た目は俺より少し上に見られることが多いから、俺の姉ってことになっている。

普通の人にも見える縁だけは、ご近所さん対策にそういう関係性を名乗っている。

ちゃぶ台の上に広げていた新聞を縁にとられた。

姉って言うか母親だな。母親がどんなもんかよく知らないけど。

あ、母親は生きている。けど、会話したこととかの記憶はほとんどない。

『主様』

「お? 涙雨おかえりー」

開いている縁側から、紫色の小鳥が飛来してきた。

『やはり朝の空気はよいの。天龍と違って緑はないが、朝はまだ清浄じゃ』

涙雨の言い方に、苦笑がこぼれた。

涙雨は俺が天龍に引っ込んでから式にくだったから、白や百合姫と面識はない。

ずっと山の中にいたから、首都は珍しいものばかりらしい。

「涙雨、メシあるけど?」

『おお。縁殿、涙雨もいただいてよいか?』

と、涙雨が人型に転身(てんしん)する。

涙雨が人型をとれば、六、七歳くらいの男の子だ。

俺の式になるまで誰かの使役(しえき)になったことのない涙雨はそれまで人型をとったことがなくて、転身した姿は俺をベースにしているらしい。

確かに、俺の子どもの頃の写真を見ると少し似ている。

……涙雨は常に人の姿でいるわけではないから、弟ってのは難しい。

たまに遊びに来る親戚の子どもってことにしておくかな。

「涙雨ちゃん、ご飯はどんぶりでいい?」

「よろしく頼む!」

……見た目は子どもの涙雨は、俺三人分は食べる。