季節は本格的に秋へと変わり、少しだけ風が冷たく感じるようになった。制服も夏服から冬服へと変わり、新鮮なキモチで学校へと登校していく。それぞれ寒さ対策をしている姿を見ると、夏が終わってしまったのだなと感じさせられる。それを考えると少しだけさびしく思えてしまう。夏にあるさわやかな青さがなくなっているからだろうか。秋独特の赤茶色の景色も好きではあるのだが、やはり物足りなさを感じてしまっている。先日まで付いていた緑葉が枯れてしまい、落ち葉へと変わってしまっていると思うと心の隙間に風が吹いているようなのだ。わたしはその虚しさを埋めるようにスタスタと学校へと足を進めている。秋の風景などこの町にやって来るまであまり気にすることなんてなかった。以前のわたしから見えている世界が広がったのだろう。楽しいことばかりではない。もちろん辛いこともあった。その辛いことを乗り越えることが出来たから、わたしは自分が見える世界を広げることが出来たのだと思う。
 学校に着き、外靴から上履きへと履き替えていると、野田先生から「水森」と声をかけられ、思わずビクッとしてしまった。何かしてしまったのかと思案してしまった。ビクビクしているわたしを見て、野田先生は大きな溜め息を吐いた。

「別に悪い話しではない。とりあえず職員室について来なさい」

「は、はい」

 わたしは野田先生に言われるがままに職員室に向かった。悪い話しではないと言われたけれど、正直、緊張をしてしまう。悪い人ではないけれど、クラスルームや授業中、そして部活中の厳しい姿を見ていると緊張して背筋がピンッと伸びてしまう。しかし彼女の指導にはきちんと愛情というモノがあるように思える。彼女の指導によって徐々に自分の絵が向上しているように思える。人としても尊敬してしまう。彼女のように厳しくは出来ないけれど、彼女のような存在になりたいとキモチが芽生えている自分がいる。
 職員室に入り、野田先生は自身の席に座り、わたしを隣のイスに座らせた。心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うぐらいにバクバクとしている。

「そんな緊張をするな」

「す、すみません」

「まぁいい。水森に早めに伝えたほうがいいと思ってな」

 野田先生は机に置いてあった一枚のプリントをわたしに手渡した。
 内容を見ると、それはわたしが投稿した絵画のコンクールの選考結果の用紙であった。慎重に確認して行くと、その選考結果にわたしは大きく見開いた。佳作のところにわたしの名前が書かれていたのだ。野田先生の顔を見ると、彼女は柔らかい笑みを浮かべて「良くやったな」と言ってくれていた。野田先生の言葉に、泪があふれて来た。金賞や銀賞を取れなかった悔しさはある。でもそれ以上に野田先生の『良くやったな』という言葉が純粋にうれしかった。わたしは泪を拭い、野田先生にとびっきりの笑顔を向けた。