「団長の態度が不満なのよ! こんな……天女のようなアナさんの思い人として、自分が恥ずかしくないんですか!?」
「恥ずかしさだぁあああ!? そんな感情、母親の腹の中に置いてきたね!」
「「「クズが!」」」
「クズで結構! いいからテメェ等は俺が稼ぐ金で黙ってろ、金の亡者共!」
「上等っすよ! 支払いが遅れると利息が増えるっすからね!」
「夜逃げしないでくださいよね!――ってか本当に払えるんですか!?」
「俺たちの傭兵団ランクは上級――Ⅳに上がった! さらに俺様は単身でキマイラやサイクロプスを倒した強者だ! どこに払えない要素があるってんだ!」
「クズ君……さすがに一人で五億は……僕も、女性の笑顔のために――」
「――黙ってろナルシスト。アナは俺の女……奴隷、だ。……かかる金は、俺が稼ぐ。当然だろ」
「……義兄様」
「そうかい、わかった。クズ君の覚悟、僕は受け取った。――認めるし、応援しようじゃないか!」

 幹部二人がクズの借金を認めたことで、団員達もクズの行いを認め――借用書を書き始めた。

(あ~……。どうやって金、稼ごう……)

 空を自由に飛びまわる燕を見つめ、クズが金策を考えていると――。

「――クラウス、大好き!」
「――あ……」

 燕のような勢いでアナがクラウスへと抱きつく。
 そして、脚が痺れていたクラウスは支えることもできずに倒れ、レンガに側頭部を強打した。
 重いボールのように一度バウンドしたクズの頭部を見て、マタが「痛そう……」と顔をしかめる。

「私はクラウスだけの奴隷ってことだね。絶対、絶対離さないでね!」

 側頭部から血を流し、意識が朦朧《もうろう》としているクズにアナが頬擦りをした。
 同時、大きな果実のような胸がクラウスに触れてぷにょぷにょと柔らかにへこむ。

「アナ義姉様、ちょっと離れて。……義兄様が興奮しすぎてニヤつきながらビクンビクンしてる」
「クズ君……君には僕の化粧品代金を稼いで貰おうかな。僕の美しさに磨きをかけるため、頑張ってくれたまえよ。……実に、羨ましいねぇ。さて、どれだけの利息をつけてやろうかな」

 イチャついて幸せそうなクズを見て、団員達は――クズにサインさせる借用書の利息を上げようと決意しながら羽根ペンを握る――。


「――高額依頼が一つも無いってのは、どういうことだぁあああああああああああああああ!?」
「す、すいませぇえええん!」
 
 アナント城の城下街にある傭兵ギルドにて、クズと受付嬢の叫び声が響いた。

「なんで城下街のデッケぇギルドなのに、大型の依頼が一つもねぇんだよ! おかしいだろ!」
「そ、それは……最近、第Ⅲ級の大型傭兵団クランがこの街に来まして……」
「ああ!? クランって……徒党を組んだ弱小傭兵団どもの集まりか!」

 憎々しい声で受付の机をクズが叩いた。ジンジンと痛む手を、さりげなくクズがグーパーと痛みを和らげる。厳めしい顔とのギャップが激しい。
 クランとは、いくつもの傭兵団が集って、数百から数千人規模の兵力を持つ集まりだ。目的を同じくする傭兵団が集い、ベテランから駆け出しまでが相互に協力しあって生き抜こうという考えから生まれたものだ。

「いえ、クランをそんな悪く言わなくても……。様々な所で活動できるとか、利点もありますし。とにかく、セイムス王国を拠点に活動する『金色の鎖(こんじきのくさり)』というクランが遠征にいらして……。お陰で危険な高額依頼は、全て片付いたんです」
「――セイムス王国だと? 畜生、あの行き遅れが管理不足のせいで俺の縄張りが……!」

 クズの頭の中に、以前セイムス王国に依頼を取りに行った際にも会った古なじみのギルドマスターの顔が浮かぶ。同時に、婚期を逃しかけ必死な形相で喚く醜態も。

「……あの、それってシリル様の事ですか?」
「自分の国で抱え込んでる傭兵団すら逃すから、男も逃がすんだクソが……! ちゃんと軟禁《なんきん》しとけよ……ッ!」

 後ろで聞いていた団員から「あの人、さっき人権がどうこう言ってなかったか?」とヒソヒソ話が聞こえたが、クズは細かい誹謗中傷など気にしない。