「も、勿論私はそのような場所に行っていない、行っていないぞ!……だが、どうも最高に美しい女性達が最高のサービスで、極楽体験を提供してくれる店があるらしくてな。本来は一見様お断りなのだそうだ。だが、私の同僚がその店の特別待遇会員だそうで、それはもう丁寧なサービスをしてくれるそうなんだ」

「……………………」

「こういうのは正直どうかとは思うが……。私からそいつに頼んで、お前もその店の特別待遇会員として一緒に連れてくよう頼んで――」

「エド兄さんっ! 義兄様に何てことをいうか!? そういう遊びは、だめっ!……プロの女で釣るのは、卑怯……っ!」

「す、すまない! 私とてこのようなこと、恥だと思ってはいるが……っ!」

「あはははっ! 僕はいいけどねっ、王宮は僕に相応しい。なんなら、引っ越しの内見に来たと勘違いされそうで心配なぐらいだよ」

「ナルシスト君ッ。信じていたぞ!」

「王城なら、僕に相応しき美しい美術品や素敵な女性達との出会いもあるだろう。いや、僕が美を見つけに行くんじゃあ無い、美が僕を呼んだと運命だも言えるね」

「君たち……ありがとう! だが、団長であるクラウスが行かない事には――」

「――何をしている? 早く準備をしろ」

「「「「!?」」」」

 飛燕が刻まれた仮面で顔を隠したクズが――太陽を背に馬上に跨がっていた。

 逆光のせいか、クズに後光が差しているように見える。

 いつの間に愛馬に跨がり身形を整えていたのか。

「――貴様、クラウスか?」

「何を当たり前の事を言っている? 俺とお前の仲だろう。兄弟子の顔を立てるのは当然だ」

「――貴様、クズか?」

「――何を当たり前の事を言っている」

 自覚のあるクズというのは、手に負えない。

 二人の義妹とエドはクズを複雑な眼で見つめる。

 歪みきったかつての英雄の姿に、どう反応すればいいのか。

 他の団員達はブレることのない自由な団長の行動に苦笑を浮かべていた――。

 王都に入ってからも、住民にクズの正体がバレるようなことは無かった。

 玉座の間の前にてエドが番兵と何かを話した後、領主からの招待状を見せると――ライヒハート伯爵は謁見の準備が出来ており、すぐに面会してくれると告げられた。

 するとどこからかメイドがやってきて、乱れた衣服を整えてくれた。

「ありがとう。君は何故顔を隠しているんだい? 自身をもてば、君はもっと美しく輝けるよ。僕の次にね。どれ、僕がメイクをしてあげようか――」

 メイドに対しナルシストが早速ナンパをしていたが、華麗までに無視された。
 顔を隠すほど長い黒髪とマスクをしたメイドだ。長い髪を揺らしながら逃げ去るメイド。

「パワハラ、セクハラ。気持ち悪い。犯罪の中でも最低の部類。この変態。犠牲者が出る前に、牢に入る事を推奨する」

「反抗できない相手に手を出すとか、お前さすがに無理だわ。無垢なメイドにトラウマ植え付けて楽しいか? ん?」

 あまりの言われように、ナルシストは少しへこたれた。

「――そ、それではお入りください。……くれぐれも無礼無きよう」

 衣服の乱れが整ったのを確認した番兵がいくつか礼儀マナーについての注意を促した後、謁見の間への扉が開かれた――。