野盗団討伐の依頼を受諾してから数日が経過した。

 この数日間、決して時を浪費していた訳ではない。
 失落の飛燕団は近隣にある町や村、旅人などから野盗団の情報を収集を行った。

「マタ副団長、新しい情報を持ってきました!」

 拠点と思われる場所の情報が掴め次第、斥候も放ち裏付けも取っていたのだ。

 そして必要な情報があらかた揃ってきた――。

「情報を纏める。野盗団の構成員は、旧アナント王国正規兵二百名。今拠点にしているのは岩場が多い山。元正規兵だっただけあって兵の練度は高く、数百人規模の傭兵団や自警団の連合が討伐に失敗したこともある。夜は拠点に全員戻るけど、日中はいくつかの部隊に分かれ、村々や街道を通る商業キャラバンを襲うのを生業としているらしい」

 これまで収集した情報と斥候が持ち帰ってきた情報を纏めてマタが読み上げた。
 幹部二名とエド、そしてクズは机を囲んで集めた情報を吟味していた。

 床几にドッシリ深く体重をかけながら腕を組み、力強く頷いてクズは口を開いたー――。

「よしっ。――この依頼は、やっぱ止めるか」

「止めさせるか馬鹿者っ!」

「ここまで危険な相手とか聞いてねぇよ。なんだ数百人規模の傭兵団やら自警団が負けたって。聞いてねぇよ。お前さ、説明義務って知ってる?」

「ええい、グチグチと五月蠅い! それでも男か!」

「こういう時だけ都合良く男だとか女とか言い出す奴、面倒くさいわ~」

「私も男だ!」

「じゃあ男の中の男、エドも手伝えよ。誇り高きクレイベルグ帝国の騎士様だろ? 助けを求める民を見捨てるんですかぁ?」

「ぐ……っ。よかろう……っ! 騎士は逃げない!」

「義兄様、エド兄さんで遊んでるところ申し訳ないけど……実際の所どうするか? 人数も全体の練度も、恐らく相手が上」

「そうだなぁ。せめて樹木が多ければなぁ……。ちょうど乾燥する時期だし、一斉に山火事を起こして炙れば一網打尽とか思ってたんだが……」

「ダメ……。それじゃ、捕縛できない。生け捕りじゃないと報酬が下がる。ここまでの調査で大分お金を使った。これで報酬が減っては……またご飯に悩むことになる」

「それに山火事は美しくない。折角の動植物まで巻き添えだ。灰になった遺体の確認もしたくないよ」

「君達まで……っ! もっと倫理的な話をしろ! 正々堂々と戦え!」

「エド兄さん。私達は騎士じゃない。唯の傭兵。正々堂々とか、無縁の存在」

「そうそう。汚いとか綺麗とか、はあ? そんなん負けた奴の言い訳なんだよ。勝ってなんぼなのよ。解る?」

「クラウス! 貴様だけは言うな! かつては騎士だっただろうに!」

「そんな過去の事を言われてもなぁ。俺は過去を振り返らない、未来志向の男なんだよ」

「僕たちの中で一番狡猾な手を使うクズ君が今更騎士ってのも失笑ものだね。クズ君がまともに戦ってる所なんて、僕は見たことないよ」

「ん……義兄様についたクズの称号は伊達じゃない」

「あ、いっそのこと『クズの騎士』とでも改名するかい? なんだか格好良いじゃないか」

「ほ、誇り高きアナント騎士の名誉が……っ!」

 騎士という位に誇りを持つエドが、痛そうに頭を抱えて突っ伏した。

「おいエド、頭大丈夫か?」

「――貴様が言うと悪口にしか聞こえん!」

 机を囲む全員が笑った。

「笑っている場合か! 結局、どう戦うのだお前らはっ!?」

「そうだなぁ……」

 クズが腕を組んで考えていると、団員の一人が走り寄ってきた。

「団長、新しい情報です。敵の頭目は高度な錬金術を使い、剣の腕前も辣腕……気が付いたら眼から頭蓋を貫かれている技を得意としているそうです」

「――……そうか」

 今伝えられたばかりの情報を聞いて表情を変えたクズに、傭兵団とエドは戸惑った。

 先ほどまでの飄々とした姿から打って変わり、急に真剣な眼差しと殺気を漂わせ始めるクズ。

「どうした、何かあったか?」

「……いや、何でもねぇ」

 ふぅ、と一度溜息をついて殺気を納めた。

「義兄様、殺気を放たれると、心臓に悪い」

「僕らも思わず身構えてしまうね。クズ君が怒気やら殺気を出していると、またあの豪商処刑の悲劇が起こるのかも……ってさ」

 やれやれとツーブロックの短髪を無意味に掻き上げるナルシストに、クズは面倒くさそうな声で突っ込んだ。

「ハゲろ」

「なんてことを言うんだい!? 僕がハゲたら世界中の女性が涙するだろう!?」

「知らねぇのか? 筋肉が多い奴はハゲやすいらしいぞ」

「な、なんだって……!?」

 自分の隆々とした上腕を摩りながら顔面を蒼白にするナルシストに、マタが優しく告げた。

「……根拠がない都市伝説。……まだ」

「――ま、作戦はそうだなぁ……夜襲で行こうと思う」