「――やあ、ギルバートだ。受けてた依頼を達成したぜ、お姉さん」

「あ、クズさんじゃないですか! 村や町を襲うモンスター集団の討伐、お疲れ様でした!」

「……ねえ、クレイベルグ帝国領のギルドでもさ、俺はクズって浸透しているのかなぁ?」

「ええ。失落の飛燕団のクズ団長は各国ギルドで超有名ですよ!」

「……あ、そう、なんだ。超うけるんですけど」

 一切の悪気なく言い切った受付嬢の反応に、クズは苦笑しながら肩をすくめた。

「とはいえ、さすがですね。今回のモンスターは凄く数も多くて、それでいてそこそこ強いのに報酬は安いから誰も依頼を受けてくれなかったんです。国の方も派兵はまだ厳しいらしく、放置されたまま長らく村々に被害をもたらしてたらしいですから……。住民の方々もさぞかし喜んでいたんじゃあないですか!?」

「ああ、良い笑顔で御礼を言われたよ。『これで戦後の復興がやっとできます』ってな。……本当に、みんないい笑顔だった。本当、超うけるんですけど」

 全く笑わず、むしろ死んだ魚の目でクズは言った。

 旧アナント領のとある町にある傭兵ギルド支部。

 受付嬢から手配モンスター討伐の報酬を受け取ったクズの表情は苦々しいものであった。

 クレイベルグ帝国アナント支城の城下街まで、貴族一行の護衛をしたクエストを終え僅か七日。

 失楽の飛燕団は、アナント支城城下街に入ることはなかった。

 クズが代表して城下街の大ギルドで報酬金と傭兵団ランクアップ――ランクⅣの徽章を受け取った。

 そして商工ギルドでモンスターの素材換金や必要な物資や食料を纏めて注文すると、即座に近隣の町や村へ活動の拠点を移したからだ。

「俺達はアナント城下には入らない。速やかに別の町へ移動する。……いいな?」

「これは決定事項。これだけは、絶対に言うことを聞いてもらう」

 団の創設者であり、首脳陣から発せられる有無を言わさぬ迫力には、団員一同も従わざるを得ないものであった。

 大きな街で遊ぶことは叶わなかったものの、潤沢な資金を手に入れた彼等は各地の町や村で充分に遊んでいた。

 そのため団員から大きな不満が出ることはなかった。

「最近の団長、ちょっと真面目だよな」

「ね~。こんなに頻繁に依頼を受けるなんて、どうしたんだろ?」

「あれじゃねぇか? やっぱマタ副団長にまた運営的な悩みを抱かせないように改心したとか」

「あの団長がそう簡単に改心するような人かな?」

「だよなぁ……。あの人、クズだしなぁ」

 団員一同はどうにも腑に落ちないことがある。

 団長であるクズが、かつて無いほど積極的にギルドから依頼を受諾しているのだ。

 各地を廻りながら、治安を乱す野党討伐や被害をもたらすモンスターの討伐を行っている。

 今までのクズであれば、大きな身の入りがあった後には大都市でゆっくり遊んで羽を伸ばす。

 間違っても、すぐに各地で仕事をテキパキこなす事は無かった。

 違和感があるものの、誰もクズにそれを問いただすことは出来ない。

 クズの義妹達が全力でクズの補佐をしているからだ。

「しかも、厄介そうな依頼は自分が請け負って、簡単な依頼は俺達に回してる。あり得なくね?」

「逆に怖いっすよね。団長って、本来はそうあるべきなんだろうけど。クズ団長は違うっすから」

 傭兵団の団員から見ると、クズ団長は間違ったことはしていない。

 むしろ傭兵団を率いる団長らしいと言えば、その通りなのだ。

 ただ、クズらしくないというだけで。

 今回もアナント支城から徒歩で約五日の距離にある町で受諾した、町や村々に被害をもたらすモンスターの討伐クエスト報告にクズは行っていた。

 クレイベルグ帝国アナント領。

 数年前にクレイベルグ帝国に占領されたアナント王国の領内である。

 アナント王都やその周囲の治安、治政は占領当時と比較して大分安定してきた。
 だが、いまだ辺境の町や村には十分な治安維持部隊を配備できていない。

 だからこそ、町や村に被害をもたらす野盗やモンスターの討伐依頼は山ほどある。

 傭兵団としては絶好の稼ぎ場であり、稼ぎ時でもある。

「ま、私達も経験積めて強くなれるしいいんだけどさ。暇もしないで済むし」

 とはいえ、貧困にあえぐ村や町からの報酬は身の入りも少なく放置されるのだが――。