宴から更に数日ほど旅路を進めると、一行はアナント城下街へ無事に入ることが出来た。

 ここまで来て今回の護衛クエストは終了――クエスト成功をギルドに報告し、ギルド側の確認が取れ次第、報酬の二千万ゼニーの支払いとランクアップが成される。

「皆様、今回は本当にありがとうございました。あなた方を疑ったこと、どうぞお許しください」

 家令の男性が恭しく頭を下げる。

「あーはいはい、俺そういうの良いから」

 クズが面倒くさそうに手をひらひらさせる。『早く行け、早く解放しろ』そんな感情が態度から如実に現れていた。

「では――」

「お待ちください、ギルバート様!」

「お、お嬢様!?」

 馬車から一人で降りてきてしまったのだろう。

 貴族令嬢がそこにはいた。
 胸の前で片手をきゅっと握っている姿が、なんとも健気で可愛い。

「改めて、御礼を! 貴方様のことは決して忘れません。私、貴方様にお会いすることができて、本当に良かった……! ありがとうございました!」

「なんてことはないですよ、お嬢様。こちらこそ、あなたと過ごせた時間は楽しかったです」

「ギルバート様……!」

「お嬢様……」

 心なしか、キラキラした何かが二人の間に舞っているように見える。

 マタは面白くなさそうにギリギリ歯ぎしりしたり、苦虫を噛みつぶしたような表情でその様子を見ていた。

 ――そんな中、お嬢様が満面の笑みで告げた。

「私、これから沢山お見合いが待っているんですが、貴方様との思い出を糧に頑張りますね!」

「――え」

「有り難いことに素敵な騎士の方々や貴族家の方々からお話を頂いていて……無事にたどり着けて良かったです! きっと素敵な殿方と幸せになります! 本当にありがとうございました!」

 ぺこり、ともう一度頭を下げて――貴族令嬢は馬車へ戻っていった。

 家令の男性も一礼すると、使用人用の馬車へと乗り込み――一行は王都へ入った。

 その場に残されたのは傭兵団のみとなった。

「……え?」

 ――どう考えても、あのお嬢様は俺に惚れてる流れだったじゃん?

「…………え?」

 ――話、違くない?

 そんな面持ちで凍り付いているクズ。

「義兄様、所詮はこんなもの。相手はただ冒険に憧れていた箱入り娘だった。それだけのこと」

「あ、そう……?」

 クズの信じられないといった呆けた顔を見て、傭兵団はクスクス笑いを我慢できなくなった。

「やはり、一番は血の繋がっていない義妹」

「あっはっは! 見てよ、あの呆けた顔!」

「団長、今の顔さいこうッすよ! 団長のおかげで今夜もうめぇ酒が飲めるなっ!」

「クズ君。僕はそういう人間味がある弱い君も、素敵だと思うんだ。やはり君と僕は絵になる。勿論、クズ君が引き立て役だけどね」

 やがて団員達は腹を抱え、クズに向け指を刺して笑った――。

 何はともあれ、これで色々あった護衛クエストは終了。

 二千万ゼニーの報奨金とギルドランクⅣへの昇格が決定である。

 成功の代償として、クズの心に新たな傷が刻まれた――。