サイクロプスとキマイラを討伐した夜。

 強敵討伐に強く感謝した貴族令嬢と使用人。

 そして一部始終をみていた私兵団達が、傭兵団に感謝の意を込めて宴を開いた。

 貴族は当初反対しようとしたものの、とてもではないが言い出せる雰囲気ではなかった。

 ただでさえ、己が見せた醜態で人心が離れつつあったのを肌で感じたのだ。

 最後には作り笑いをしながら宴の許可を出した。

 旅も残すところ僅かで、これからは人里近くに入るため大きな危険が起きる可能性は極めて低い。

 節約し貯めておいた酒も持ち出し、百何十人という人数が一同に会して大盛り上がりの豪勢な酒宴となっていた。

 さて、その集団の中央では――。

「ほいっ!――はぁっ!」

 ――何で私まで……。
 ――全く……。

 ウンディーネの水と、サラマンダーの火。

 そしてクズによる流麗な剣舞が余興として振る舞われていた。

 幻想的なその光景に、観衆は大盛り上がり。

 精霊達も盛り上がっている人々を見て、なんだかんだ楽しそうな表情で一緒に舞っていた。

 ウンディーネの水とサマンダーの火で発生させた水蒸気がドライアイスのように舞い上がる中――クズがビシッとポーズを決め、剣舞が終了。

「いや~、皆さんどうもどうもっ! さぁガンガン呑んでいこうぜっ!」

 やんややんやと拍手が贈られる中、クズは精霊達とハイタッチをして酒を取りに中央から荷馬車の方へ一緒に移動した。

 ――くあっ! この酒、辛味がたまらんなっ!
 ――こっちの果実酒も、芳醇で美味しいのぅ。

「ああ、盛り上がった後だから余計に美味いっ!」

 精霊は基本的に祭りと酒が大好きなのだ。

 ただ、ここまで現世に完璧に顕界される姿がないから目撃数が少ないだけで。

 クズも大好物である冷えた麦酒を豪快に飲み干して満面の笑みを浮かべ談笑していた時――。

「あ、あの――ギルバートさん!」

「あん?」

 精霊と酒杯を酌み交わす最中、突然かけられた声に振り向くと――そこには貴族令嬢と女性使用人達がいた。

「な、なん……でしょうかねぇ?」

 女性一人だけと会話ならともかく、複数相手だとどこに注意を向ければ良いのか。

 どうしてもクズは怯えて竦んでしまう。全身が緊張で硬くなる。

「お昼のこと、ちゃんと御礼が言えておりませんでしたから。本当に、ありがとうございました!」

「ありがとうございました! とっても素敵だったんですよね!」

「怪物二体を相手にお一人で戦う雄姿、お嬢様にお聞きしました!」

「是非、武勇伝をお聞かせください!」

「え、ぇえ……っ?」

「お嬢様が仰るには、それはもう勇敢に戦い巨大なモンスターを一人で退治なされたと!」

「ええ、もうすっごく格好良かったんですよ!」

 実際には絡め手を使い、ちょっと良い子にはお見せできないような……鈍器で一方的にボコボコにするという有様だったのだが。

 このお嬢様は、幻覚でも見ていたのかも知れない。

 どこかの英雄譚に出てくる主人公のように剣で巨大な敵をズパンッと切るような、そんな戦いを見たように瞳をキラキラとさせている。

 きっと衝撃が強すぎて記憶を改竄したんだな。

 可哀想に。

 それがクズの抱いた感想であった。


 ――だったら、せめて夢を壊さないでやること。それこそが正義だと思った。