クズが失落の飛燕団のキャンプに辿り着いてから五日後の朝。
セレネル王国王都正面口前に集う集団があった。
セレネル王国の貴族一家と使用人、そして私兵。
――その一行の中に、失落の飛燕団の姿もあった。
高い士気で移動を続けた傭兵団は、若干の時間的余裕を持って合流を果たした。
その間、尻を血だらけにしてしまったクズはといえば――。
「……荷馬車でも、案外身体が休まるもんだな」
鞍に跨がることはもう無理と判断されたクズは、仲間の厚意によって荷馬車に乗せられ王都まで移動した。
泥のようにうつ伏せで眠り、尻を荷台につけて負荷をかけることなく五日間が経過した今、尻の傷はほぼ完治していた。
目的地に到着した今は団長としてテキパキ行動――は彼の気性からする訳もなく。
嫌々ながら雇い主である貴族集団の代表と挨拶をしていた。
「この度は当家からの依頼を快くお受けいただき、誠にありがとうございますギルバート殿」
「ああ、いえいえ~」
おそらく六十歳近い年齢だろうか。貫禄のある男性が恭しくクズに頭を下げていた。
男性はこの貴族家の家令であり、貴族一族とお家を守るのが仕事でもある。
今回の旅路における護衛の件にも、相当気を揉んでいたらしい。
「いやはや、中々どうして護衛をしてくださる傭兵団が決まらなくて……。尻に火が付く思いでした」
「はは、でしょうねー」
「報酬としては十分だと思ったのですがね。当家としてもこれ以上の額は出せず、悩んでいたのです」
「命は大事ですからねー」
「……ギルドマスターのシリル殿から、貴方様は非常に信頼できる腕をお持ちと聞いています」
「そりゃどもー」
「…………」
「…………」
クズにとって今回の依頼は正直嵌められたという心情が強い。
挙げ句、到着して挨拶に来たら出てきたのは可愛い女性ではなく白髪のおっさん。
話が違うなんてもんじゃない。
シリの話では、二週間の間沢山の美女の傍にいられると聞いていたのに話が違う。
貴族の令嬢は豪奢な馬車に乗ったまま出てこないし、使用人の女性達も同じく使用人用の馬車に乗って出てこない。
会えるのはこのおっさんと御者、更には汗臭く鎧を着込んだ貴族の私兵のみ。
男臭い旅どころの話ではない。
詐欺にあいながら愛想良く振る舞える人間がいるだろうか?
――いいえ、いません!
それがクズの主張であった。
人間としての礼儀とか自分に起因する諸々は置いておいて物を言う。
「あ、あの――」
そんな時、豪奢な馬車に備えられた車窓から一人の年若い女性が顔を出してきた。
非常に美しく、身に施した綺麗な装飾を輝かせながら微笑んでいる。
「お嬢様、いかがされましたか?」
「そちらの御仁が今回護衛を務めて頂く傭兵の御方、ですよね?」
「ええ、そうです」
「やはり、私もご挨拶した方が……」
「いえ、それは私めにお任せ――」
「初めましてお美しき嬢様。私は団長のギルバートと申します。僭越ながら此度の道中、貴方様の護衛を務めさせて頂くことに相成りました。どうぞ、よろしく御願い致します」
「まあ、礼儀正しいお方ですね。素敵です! こちらこそ、どうぞよろしく御願い致します」
「…………」
セレネル王国王都正面口前に集う集団があった。
セレネル王国の貴族一家と使用人、そして私兵。
――その一行の中に、失落の飛燕団の姿もあった。
高い士気で移動を続けた傭兵団は、若干の時間的余裕を持って合流を果たした。
その間、尻を血だらけにしてしまったクズはといえば――。
「……荷馬車でも、案外身体が休まるもんだな」
鞍に跨がることはもう無理と判断されたクズは、仲間の厚意によって荷馬車に乗せられ王都まで移動した。
泥のようにうつ伏せで眠り、尻を荷台につけて負荷をかけることなく五日間が経過した今、尻の傷はほぼ完治していた。
目的地に到着した今は団長としてテキパキ行動――は彼の気性からする訳もなく。
嫌々ながら雇い主である貴族集団の代表と挨拶をしていた。
「この度は当家からの依頼を快くお受けいただき、誠にありがとうございますギルバート殿」
「ああ、いえいえ~」
おそらく六十歳近い年齢だろうか。貫禄のある男性が恭しくクズに頭を下げていた。
男性はこの貴族家の家令であり、貴族一族とお家を守るのが仕事でもある。
今回の旅路における護衛の件にも、相当気を揉んでいたらしい。
「いやはや、中々どうして護衛をしてくださる傭兵団が決まらなくて……。尻に火が付く思いでした」
「はは、でしょうねー」
「報酬としては十分だと思ったのですがね。当家としてもこれ以上の額は出せず、悩んでいたのです」
「命は大事ですからねー」
「……ギルドマスターのシリル殿から、貴方様は非常に信頼できる腕をお持ちと聞いています」
「そりゃどもー」
「…………」
「…………」
クズにとって今回の依頼は正直嵌められたという心情が強い。
挙げ句、到着して挨拶に来たら出てきたのは可愛い女性ではなく白髪のおっさん。
話が違うなんてもんじゃない。
シリの話では、二週間の間沢山の美女の傍にいられると聞いていたのに話が違う。
貴族の令嬢は豪奢な馬車に乗ったまま出てこないし、使用人の女性達も同じく使用人用の馬車に乗って出てこない。
会えるのはこのおっさんと御者、更には汗臭く鎧を着込んだ貴族の私兵のみ。
男臭い旅どころの話ではない。
詐欺にあいながら愛想良く振る舞える人間がいるだろうか?
――いいえ、いません!
それがクズの主張であった。
人間としての礼儀とか自分に起因する諸々は置いておいて物を言う。
「あ、あの――」
そんな時、豪奢な馬車に備えられた車窓から一人の年若い女性が顔を出してきた。
非常に美しく、身に施した綺麗な装飾を輝かせながら微笑んでいる。
「お嬢様、いかがされましたか?」
「そちらの御仁が今回護衛を務めて頂く傭兵の御方、ですよね?」
「ええ、そうです」
「やはり、私もご挨拶した方が……」
「いえ、それは私めにお任せ――」
「初めましてお美しき嬢様。私は団長のギルバートと申します。僭越ながら此度の道中、貴方様の護衛を務めさせて頂くことに相成りました。どうぞ、よろしく御願い致します」
「まあ、礼儀正しいお方ですね。素敵です! こちらこそ、どうぞよろしく御願い致します」
「…………」