ヘイムス王国の王都では、大々的に凱旋式が執り行われている。
 確認と回収に向かった者たちが持ち帰ってきたドラゴンの首を載せた車と――五百四十一名の英雄、そして先頭に立つクララ王女が民衆の歓声に応え手を振っていた。

「あれから、もう二週間か……」

 クズはというと――王城内の治療院のベッドに腰掛け、窓からその様子を眺めていた。

「本当に、今回ばかりは死ぬかと思ったぜ。……俺らしくもねぇ。あんなんは英雄さんの仕事だよ」

 自分らしくもない。
 強大な敵に、命をかけて挑むなんて馬鹿げている。
 もっと堅実に安全な金策をする傭兵団だったはずのにと自嘲気味に笑い――。

「――なぁ、爺さん」
「……ワシに言うな」

 隣のベッドに寝る、正真正銘の英雄へと声をかけた。

「おいおい、なんだよ英雄さん。戦場で死ねなかったからってふてくされてんのか?」
「ふん……」
「いやぁ……。まさかアナの召喚するシルフィの力が――病や毒みてぇな異常に、最大効果を発揮するものだったとはなぁ。そりゃあ、攻撃力なんてないはずだぜ」

 そう――外傷は致命傷に届いておらず、マタの治癒魔術と治癒薬によって、アウグストは一命を取り留めた。
 そしてファフニールの眷属による毒や、臓器を蝕む病は――シルフィが纏う癒やしの風と一緒に緩和されたのだ。
 緩解とは行かなくとも、余命幾ばくも無いとまで臓器を蝕んでいた病が和らいだ――。

「……規格外だ。貴様の『緋炎』と同じ、聞いた事もない精霊術の技だ。……彼女も、精霊から愛されているのだろうな」
「俺からも愛されてる女だからな」
「黙れ、自惚れるな」

 誇らしげに言うクズに対し、アウグストはいつもより辛辣な返事をする。

「――病も緩和して、もうしばらく長生きできるってお医者さんが言ってたなぁ。……なぁ、なんでそんなイライラしてんの?――可愛い弟子に教えてよ、最期にさぁ~」
「――上等だ小僧ッ! もう一度魔域に投げ込んで教えてやろうッ!」
「あぁ!? 顔を真っ赤にして胸ぐら掴んできやがって! 恥ずかしいんでちゅか、お師匠さん?」
「貴様を殺して、ワシも死んでやるッ!」
「死ぬならテメェ一人でくたばれや老骨ッ! 老兵の散り様、見せてもらおうか!?」
「貴様……ッ! 年寄りを敬うことを知れ、小童がッ!」
「病室で騒ぐ老害を敬えとか、無茶言うんじゃねぇぞッ!」
「誰のせいだ誰のッ!」

 ベッドの上に乗ったり、降りたり。
 胸ぐらを掴みあって罵る二人。
 いくら二人しかいない病室とはいえ、確かに迷惑な患者ではあった。

「――師弟の仲を深めているところ……すまんのう。話しかけても、よいか?」

 入口で声をかけるタイミングを窺っていたヘイムス王が、気まずそうに声をかけた。

「陛下、もちろんですとも。どうされましたか?」
「うむ。クラウスの状態が良くなっているなら、謁見の間にて報酬の話に参加させたいと思ってな」
「――報酬、そうだ! エロの情報と金だよッ!」
「詰め寄らんでも、キチンと話すと言っておるっ。とにかく、着替えて謁見の間へと来てくれ。――クラウスの仲間たち四十一名は、凱旋を終え待機させておるからな」
「あいつら――俺の報酬を横取りする気か!」

 クズは痛む身体などお構いなしに、いつものガラの悪い服装に着替える。
 キュッと腰に紅いストールを巻き、端を揺らしながら謁見の間へと駆けていった――。