些細なトラブルはあったものの、目的となる鉱山へと無事にたどり着くことができた。
 鉱山から徒歩で数十分という岩場で、兵たちは陣を張り――。

「――斥候からの報告です」

 クララやアウグスト、傭兵団主力が詰めている軍議用の大きなテントへ、斥候が報告へ戻ってきた。
 本営となるテント内に入ってきた斥候は、王族であるクララを前に膝をつく。

「報告してください」
「はっ。ドラゴンは金鉱山の奥を住処にしており、一日に二度ほど巣穴から出てきます」
「……二回、なるほどな。巣穴から出てる時間はどんぐらいなんだ?」
「数十分から数時間と、かなりばらつきがあります。おそらく、餌を狩りにいっているのかと」
「そうか。――クラウス、作戦はあるか?」
「……そうだな。――おい、鉱山内部の地図があったな」
「うむ、ワシが持ってきておる」
「やるな、爺。――この地図のどこにドラゴンがねぐらを作っているか、わかるか?」

 クズが斥候を手招きして呼ぶ。
 慌てて立ち上がった兵が駆け寄り、机上の地図を見ながら――。

「おそらく、この辺りかと。ドラゴンは毎度、この坑道の入り口から出てきます。ここは一本道ですので、進んだ先にある広い場所をねぐらにしているのではないかと……」

 恐る恐る、地図を指さした。
 王族であるクララや、もはや伝説となっているアウグストを前に怯えている兵士。
 クズは強ばっている兵士に満面の笑みを浮かべ――。

「――よくやった! これで作戦が立てられる。今後も君の活躍に期待してるぜ!」
「へ? は、はい! 全身全霊を尽くします!」
「言ったな? 全身全霊、頑張れよ?」
「兵士として当然ですッ!」
「よしよし。じゃあ次の作戦はまた後でクララが伝えるから。もう下がって良いよ」
「――はッ! 失礼します!」

 晴れ晴れとした表情を浮かべ、兵は元気よくテントを出て行った。

「……クラウス、何を企んでおる?」
「爺さんとほぼ同じだと思うがな?」
「まぁ、クラウス様に妙案があるということですね。是非、お聞かせ願えますか?」
「……嫌な予感」
「クズ君が笑うと、危険な予感しかしないよ」
「クズ団長殿、殴り込みをかけることを提案します!」
「クラウスなら、きっと大丈夫」
「まぁまぁ、今回の作戦はまともだぜ?――つうより、当初から考えていた計画通りいけそうだ」
「……爆薬か」
「さすがはアウグストの爺さん」

 パチンと指を打ち鳴らしながら、クズがアウグストを指さす。

「実力が遙か上の相手なら、搦め手や罠にかけるのは定石だろう。……問題は爆薬をいかに素早く仕掛け、起爆させるかだ」
「それについてなんだが、俺に考えがある。まず、ドラゴンが飯を探してる時間に爆薬をしかける」
「だが強い魔物は匂いにも敏感だ。帰ってきて人間の臭いがする所へは、素直に入らんだろう」
「――俺の錬金術で、地下から巣穴に潜る」
「それは、危険ではありませんか?」
「間違いなく危険。本来の出入り口は一つしかない。義兄様一人なら地下深くまで潜れるかもだけど、爆薬を持って行く人数を考えると、穴は相応に大きい。そしてそんな目立つ痕跡を残す訳にもいかないから、着いたらすぐに穴を埋めないといけない。ドラゴンが帰ってきたのを見て起爆しても、即座に待避するだけの奥行きの穴を掘るには……魔力を大量に消費するはず」
「魔力は何とかなる。一番の問題は、爆薬を安全に設置する時間の確保だ。――その為に兵をわける。五百の兵と傭兵団にはこの広場で待機して、ドラゴンが来ないか見張っててもらう。後は、爆薬でもし打ち損じた時の後詰め役だな。念のためにウンディーネをそっち側につけよう」
「成る程。それなら、伝令も必要ないわけだね。ウンディーネとクズ君はパスを通じて念話ができるから」
「その通り。爆薬設置は俺や筋肉ども――ナルシストとチチの三人でやる。アナやクララ、アウグストの爺は、この本営にいて欲しい」
「……何だと?」
「どういう事ですか?」
「相手は飛行性能のあるドラゴンだ。五百の兵が護る中央にいても、万一がある」
「孫娘――クララ王女を安全な所に置く意味はわかる! クラウス、ワシにまで安全な後方にいろというのか!?」
「――戦場を枕になんて、死なせねぇ。コレが俺の復讐だ」
「貴様……ッ!」

 アウグストが土気色の表情を歪め、クズの胸ぐらを掴む。
 一触即発の空気が流れる中――。

「クラウス様のお気持ちは有り難いですが、総指揮官は私です。私は五百の兵や傭兵とともに、前に出ます」