「――クソ爺。条件次第でやろう。ドラゴンスレイヤーにして救国のモテモテ男に――この俺、ギルバートがなろうじゃねぇか!」
「……やっぱり、なんか嫌かな」
「義兄様……阻止する」
「クズ君、君って奴は本当に……」
「いやっほう、ドラゴンっ! ドラゴンって言ったら、最強って噂。ぼくの拳も大興奮ですっ!」

 傭兵団一同は、クズに振り回され三々五々反応している。

「クラウス……我は構わぬが、本当に良いのか?」
「かまわない」
「そうか……クズ、か」
「有名人になるからには、誹謗中傷にも慣れている。俺はその十倍モテればいい。……あと、側室」
「……」
「……」
「ふぅ。――それで、条件とはなんじゃ?」
「――兵を最低でも五百と、ありったけの爆薬だ」
「……クラウスは現状、ギルバートという一傭兵でしかない。クラウス・ヴィンセントとして発表するか、クララと結婚でもしない限り兵は――」
「それは断る。マジで断る」
「……そんなに、クララじゃダメかのう」
「人形は嫌なんだ。それぐらい、わかれ」
「そうか……」

 参ったな、どうすればクラウスに五百名の兵を指揮する大義名分を与えられるものか。
 ヘイムス王が頭に手を当て、そう悩んでいると――。

「――では王族である私が、魔物討伐の名目で兵を率いましょう」
「……クララ?」

 クララがスッと手を上げてそう言うと――。

「何を言っているっ! クラウスとて死ぬかもしれん場所だ、クララを送りこめるものかッ!」

 アウグストが激昂していた。

「おじいさま、私はクラウスを愛しています。――クラウスがこの世からいなくなったら、私が生きている意味はありません」
「ぬ……クララの一途さは認めるが……ッ」
「我が姪孫を死に追いやるのは……ぬぅ」
「……甥っ子は?」
「クラウスは生き残る、我はそう信じておる」
「あっそ」
「――ならば、ワシが指揮を執れば……」
「アウグストよ。――病により後方に退いたお主だ。いきなり引っ張り出して、討伐隊の指揮を任せれば……」
「明らかに、重大な国難に窮していると帝国に見せつける事になりますわ」
「く……っ!」
「だからこそ、お手軽に王族としての箔を付ける為に出兵したと見せかけるために――第七王女という微妙な立場である私こそ、適任なのです」
「理屈では……そうだが、しかし!」
「……わかった。だが、クララは兵五百名から決して離れるでないぞ」
「――陛下!」
「アウグスト。子供を信じることの大切を我に説いたのは、お主じゃ」
「……わかりました」

 意見が纏まろうとした時――。

「あ、それじゃ無理だわ。だったら、もう五百追加。――兵士を千名くれ」
「……クラウスよ、簡単に言うでないわ。敵国を刺激しないように多数の兵を出す困難さは知っておろう。それに、いくらかかると――」
「――あっそ。それなら、条件は不一致ってことで」
「待て待て。動員理由に対し、人数が多すぎると不審がられるのはわかるであろう。危険度S級でも五百の兵があれば事足りるのじゃから。……爆薬を代わりに増やそう。それでどうじゃ?」
「爆薬かぁ、ちょっと弱いなぁ。それじゃあ俺、危険だなぁ……。五百の兵に護られるクララはともかく、俺は死んじゃうかも」
「クズ……か」
「そっちもエロの情報を隠してんだ、こんぐらいの嫌がらせは当然だろう」
「ぬぅう……。では、成功報酬じゃ! これを増やすことでどうじゃ!?」
「ほう、金か……。それで、いかほどいただけるので?」

 クズはほくそ笑みながら、自分の叔父――ヘイムス王を揺すっている。
 その姿を見て、さすがに傭兵団一同も「これは酷い」と口にせずにはいられなかった。
 王は呼び鈴を鳴らし、急いで財務大臣を呼び出した。
 眠そうだった財務大臣も、居並ぶ面々と話の内容を聞いて即座に目が覚めた。
 じり貧だった財務状況が、もしかしたら解決するかもしれないのだから。
 そして過去の採掘資料や素材売買の記録などを元に、ヘイムス王は財務大臣と執務机の上で計算を始める。

 そうして待つこと数十分――。