「クラウス……私、もう離さないって言ったのに。約束破ってごめんね?」
「私も……ちょっと、あの頃を思い出して寂しくなった。義兄様も、エロ姉さんも……お母さんもいない。寂しい洞窟の中」

 なるほど、とクズは思う。

(こいつらも……拗らせておかしくなっちゃったんだ。みんな――もう手遅れ、なんだね……)

 つうっと、熱い雫が両頬を伝って流れ落ちていくのを――アナがペロリと舐めた。

「ん……。しょっぱい」
「ちょ……っ。貴女は何をなさっているんですの!?」

 慌てたクララがアナの肩を引いて、ベッドから降ろす。

「貴女が、クラウスを泣かせたんだね」
「違いますわ。あなたのせいですのよ! あなた例の……クラウスの、元主君ですわね?」
「そう。今はクラウスの奴隷、幼馴染みにして愛を誓いあった従兄妹」
「……奇遇ですわね。私も愛を誓いあった長馴染みにして従兄妹ですのよ」
「……私の方が勝ってる」
「何を仰い――今、身長をバカにされましたか!?」
「ふっ……」

 片側の口角だけをつり上げて、アナは笑った。挑発的な笑みだ。
 カチンときたのか、クララは瞳をカッと開き――。

「胸は私が勝ってますわね」
「……無駄に大きければ、いいってもんじゃない」

 細身の身体には十分過ぎる程に大きいアナの胸だが――クララの胸を見てカッと瞳が開いた。
 胸に付いている果実が――デカい。
 確かに、自分はクララの巨大すぎるバストには及ばないと悟った。
 腕を組んで、さりげなく自分の胸を強調して対峙する。
 そこで――。

「――二人とも、私に喧嘩売ってる」

 ぶち切れながら第三勢力――マタがゆったりとベッドから降りてきた。
 小さい身長、ぺったんこの胸。
 身体面で二人が指摘した劣る部分――全てにおいて、惨敗だ。
 そんな敗北者は、敗北者に甘んじていられるのだろうか。

「――自分より上を消せば……残るのは私一人」

 そう、譲れない場面では――敗北したままではいられない。
 己の存在意義、プライドをかけ――マタはカッと瞳を見開く。
 バチバチと火花を散らす三人。
 そんな女同士のプライドを賭けた勝負を尻目に――。

「ワシは首輪を断ち切ろう」
「じゃあ、僕は足枷かな。……クズ君、なぜだろうね。今の僕は、モテている君が羨ましくないんだ。……これはやっぱり、僕が女性よりも美しくなってしまったからかな?」
「単に女の汚い部分を見たから、自分が綺麗と錯覚してるだけだ。お前は変わらず、むさ苦しい筋肉達磨だよ」
「はいはい~! 仲良くおしゃべりも良いけど、やることスパッとやっちゃおう! ぼくはこの手枷だね。――ほいっと!」

 一瞬、気のようなものを送るため瞳をカッと開いたチチが、一瞬で手枷を破壊する。
 続いて首輪と足枷も破壊され、クズはやっと自力で動けるようになった。
 首をコキコキとならしながら、上体を起こして――。

「チチ、お前は色気より食い気だな……」
「ん? そうだよっ! ぼくはご飯と武に関連するものがあればいいのですっ!」
「――お前を仲間にして……。本当に、良かった………ありがとうっ」

 チチをギュッと抱きしめた。

「ふぇえええ、クズ団長殿っ!? どどど、どうしたというのかなっ!?」
「怖かったんだ……。今だけ、こうさせてくれないか」
「はぅぅう……」

 クズの胸の中で、腕を畳みながら動揺していたチチだが――すぐに抵抗を止めた。
 震えるクズの様子を見て。――そして、耳元で甘える声を聴かされて、なんだか頬が照ってしまう。
 自分のドクドクという鼓動に動揺して、動きを止めざるを得なかった。

 ――数十分後。

 クズがチチを除く他の女性陣と、助けにきた男二人にボコボコにされている姿がメイドに発見され、国王へと報告された。
 何かを諦めた様子の国王は『クラウスに治癒魔法をかけ終わり次第、その場にいる全員を謁見の間に連れてこい』と指示を下すことになった。

 ――そして、それから三時間後。

 宵闇の中、満月が窓から見える謁見の間。

「……随分と治療に時間がかかったのう、クラウス」

 玉座に座るヘイムス王は、ボロボロのクラウスを見て苦笑した。