「――人違いです」
「王からそのような事は絶対にない。何が何でもお連れするようにと承っています」
「それでも、俺は違います」
「無駄な抵抗はおやめ下さい」
「ちげぇっつってんだろ、ぶん殴るぞ銀ピカ野郎」
「……」
「……」

 月光で白銀色に輝く立派な鎧、一目で最高品質だと分かる剣を腰に下げた近衛騎士。
 対して、闇に溶けるような荒くれ者の格好をしたクズ。
 両者は火花を散らすように視線を交えていた。
 絶対に連れて行くという近衛騎士。
 何が何でも行かない。ヘイムス王には合わないというクズ。
 意見が対立する両者は、不毛な言い争いを続けていた。

「幼少期の頃のあなたの似顔絵をお預かりしています。確かに、成長されて多少はその……」
「クラウスさんという方は、こんなイケメンじゃないでしょう?」
「いえ、確かに似顔絵の頃よりだいぶ粗暴で目つきが悪く成長されていますが……。どちらも、ちゃんと不細工です」
「……」

 思わず「ぶち殺すぞ」と言い返しそうになるのをグッと堪えた。
 自分がクラウスだとは絶対に、バレる訳にはいかない。
 隠し通すためならば、侮辱にも耐えて見せよう。
 そんな気持ちが口の悪いクズの暴言を止めた。

「間違いなく、あなたがクラウス殿だとご報告があがっているのですよ」
「どこからですか?」
「我が国にある商工ギルドの代表からです」

(あの爺、俺を売りやがったな……ッ!)

「ははっ。確かクラウス・ヴィンセント殿は帝国との戦争でおっ死んだのですよね。生きてこんなしがない傭兵をしている訳がないじゃないですか」
「……確かに、私が知るクラウス・ヴィンセント殿は――幼いながらに立派な立ち居振る舞いを成されていた。まさに最優の騎士と呼ぶに相応しい御方でした」
「なら、俺とは真逆ですね。俺はクズで名の通った男ですから。はい別人決定。では、お帰りはあちらの道です」
「……やむを得ませんな」

 ――勝った。
 クズは確信し、内心でほくそ笑むが――。

「――それでは、後日改めてアウグスト殿がお伺いしますので、我々は失礼します」
「……え?」
「……何か不都合がございましたか、ギルバート殿。汗がすごいですよ?」
「あの……その人ってもしかして、ヘイムス王国の――大将軍じゃないですか?」
「よくご存じですなぁ、アスグスト・サンドバル殿のことを。御高齢故に、今は大将軍の座を退かれ軍事顧問と戦術指南役をしておりますよ」
「……なんでそんな人がさ、俺の所にくるわけ?」
「実は、アウグスト様から直々にギルバート殿への御言葉をお預かりしています」
「……なんて?」

 騎士は少しだけ目線をそらしながら――。

「それは――『どんなに言い訳して隠れようと、ワシから逃げられると思うなよ』。以上です」

 近衛騎士の言葉を聞いたクラウスは、足をガクガク震えさせて一歩後ずさった後――。

「マジで見逃してくれ! もう一生のお願いだから!」

 モブのように情けなく、騎士の足に抱きついて懇願した。