失楽の飛燕団のキャンプでは、急遽バーベキューが開催されることになった。
 飢えていた兵達は、降って湧いた食糧で大いに喜んだ。

「――精霊の火で調理された羊肉、たまらないっす!」
「血抜きも筋切りも完璧っ! さすがクズ団長!」
「僕が何をするまでも無かったね。……おや、この肉は柔らかいね。誰が調理したのかな?」
「それは、新入りのチチが仕留めたズラトロクの肉。……殴りまくって殺したらしい」
「わぁ、すごいね。叩いたお肉かぁ、お礼いわなきゃだね。そのチチちゃんはどこにいるの?」
「――あっちで、羊の丸焼きを食べてる。……力の代償は、大量の食糧らしい」
「へぇ、そうかい。ふんふん鼻歌を歌いながら、上機嫌に団員達と話しているね。上手くやれそうでよかったよ。家族のような団員同士の絆、連携。それは僕の美しい筋肉にも似ている」
「ナルシストの筋肉は、ズラトロクの胴体と似てる」
「マタちゃん!? それはいくらなんでも酷いんじゃないかな! 僕の腕はあんな毛むくじゃらじゃないよ!?……所で、大活躍だったクズくんはどこにいったんだい?」
「クラウスは……一人にして欲しいって」
「そうかい。……彼は、まだ脱退したことを気にしているのか。珍しく、先陣を切ったしね。あるいは、僕たちに怒っているのか……」
「……多分、違う」

 不安そうな顔をしているアナやナルシストとは違い、マタは――冷めた目線で肉を囓った。
 一方、噂のクラウスと言えば――。

「……もう少しだったのに。お互い合意のうえだったのに……っ」

 ――うむ、そうじゃな。残念だったのう。

 草むらの中で静々と肉を食べながら、精霊に愚痴を吐いていた。

「いっつもそうだ。俺が童貞卒業しそうになると、何かが邪魔をするんだよ……」

 ――だが、良かったんじゃないか。

「何が? 何が良かったって言うの……っ」

 ――妾も良かったと思うぞ。初めてが、あんな理性を失った獣状態ではなぁ。
 ――がっついて痛い思いをさせて、怖いって思われるよりも良かっただろ。仕切り直しだ。

「……そっかぁ。そうだよなぁ……うん。俺、急ぎ過ぎてたよな。嫌われたくない……」

 普段の自由奔放かつ尊大な姿からは想像もつかないぐらい――弱々しくなっていた。
 それだけ思春期の男の子にとって重要な場面だったのだ。
 そんな傷心状態にあるクズの傷口へ塩を塗るように――。

「――食事中、失礼する! 我らはヘイムス王国近衛騎士団である。ここにギルバート殿こと、クラウス・ヴィンセント殿がいらっしゃると聞いて参った! 王が面会を望まれている。我らと一緒に王都までご同行願いたい!」

 よく通る爽やかな声をした男が、厄介ごとを携えやってきた――。