「ななな、なんでそうなるッ!?」
「ちょっと怖いけど、クラウスならいい。役に立ちたいし、私もそれを実感したい。それに……難民達が連れて行かれるのを見つめてた、辛そうなクラウスを癒やしたい……かな」
「癒やすって、そういう意味じゃ……ッ!」
「でも、あの時クラウスは心を痛めてた。それでも、自分の責任だって見続けてたよね。どんなに傷ついてもって。だから、癒やしが必要。……違うかな?」
「いや、それは……ッ!」

 予期せぬ事態だが、相手側の合意がある。
 そして何より性交渉を持ちかけてきた相手は――思い人のアナだ。

(時刻は深夜、よい子は寝てる時間! いや、だが待て。こんな傷心につけ込むような真似をしていいのか!?)

「やらない……かな?」

 クズの脳内は父親と戦った時よりも――激しく葛藤している。
 表情は固まり、脳はフル回転。
 真剣な表情のまま、顎からは汗が伝う程に考え――。

「――や……」
「や?」
「や――め、ときます……っ!」

 ――臆病な感情が勝った。

 震える唇と手。
 理性と欲求が対決する中で犠牲となり噛まれた舌から、血が流れ出して口の端を伝っていく。

(――これでよかったんだ。俺は帰り新参の団長、家族のような傭兵団の中で立場があるッ!)

 クズは思う。
 そう、自分は家族を率いる立場として、正しい決断をしたんだと。

「……残念。私はいつでもいいのに……。胸、足りないかな?」

(――だが、立場なんてなんの価値があるのだろうか。形もなく、ちっぽけなことだ)

 シュンと俯き、両手で豊満な胸を揺らすアナを見て、理性の砦は一瞬で崩壊する。
 目の前に座るアナの胸へ向かい、プルプル両腕を上げ――。

「あ、もらったお酒飲まなきゃだね」

 両手で握った杯をグイッと口に運ぶ。すると、目指していた禁断の果実――胸が肘で隠れた。

(あ、あっぶねぇえええッ! 取り返しの付かないとこまで行くところだった!)

 目にも止まらぬ早さで両手を背に回した。

「ん。美味しい……。どうしたの?」
「いや、何でもねぇよ。ちょっとあれだ……ストレッチ、みたいな?」

 後ろに回した手を組み、胸をグッと張ってそう強がる。

(いかんいかんッ! 俺には男の責任がある。ここで手を出せば、アナは自分の事を性的な奴隷として認識しちまうかもしれねぇ……ッ)

 フウフウと深呼吸しながら必死に理性よ働けと命令する。
 脳内は大忙しだ。

「そっか……手伝おうか?」

 杯を置いたアナが四つ足で歩く猫のようにクズの方へ寄ってくる。
 グッと伸びをして視野が見下ろすように高くなっているクズ。
 寝苦しくないようにと、緩くできている肌着の首元から――隠されている奥が見えた。
 そこから導き出されるのは――。

(禁断の果実の谷だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?)

 いわゆる、胸の谷間というものだ。

(獅子は可愛い我が子を千尋の谷へ突き落とす試練を与えるというが、俺のジュニアにも試練がぁああああああッ!?)

「八百屋さぁアアアアアアンッ!」
「……え?」

 以前に自身で言っていたように、メイド奴隷として働いていた時とは違う。
 今、アナの胸にサラシなどの包装はされていない。
 豊満で瑞々しい巨峰が見え――。

(性的な癒やしだけじゃない事は口で伝えてもいけるんじゃねぇかな。うん、きっと大丈夫おっぱい柔らかそう。やっぱ口と態度両方で誠意を持って伝えれば生おっぱいってどんな感触の誤解を与えることは――いかん落ち着けッ!)

「クラウス? 目が痛いの?」
「違う、ちょっと痒いだけだから! こぼしたアルコールが揮発したんかな!? うん、きっとそうだ!」

 血走って痛む両目を押さえる。

(人は目に見える誘惑に流されるもんだ! 見なければ何という事はないッ! 一度落ち着け俺、脳内がおっぱいになっているッ! 俺は童貞、死ぬほどやってみてぇが、決してアナを低俗な欲望を満たすために――)

「あ……。そうだよね。――お酒こぼした所、拭くね?」
「――……」

 目を覆っているクラウスのお腹から下半身にかけて――柔らかな感触が触れる。
 零れた酒を拭う布からはみ出した、アナの白魚のように細い指だ。
 液体が染みて冷たかった腹、濡れた下衣も優しく拭ってくれて――ドクドクと血が流れ脈打ち――。

「熱ぅうううううううううううういッ!」
「え? 冷たい、けど?」

 下心のない善意の行動で、たまたまほんの少し地肌同士が接触するだけ。
 だが――視覚を制限している分、感覚は何倍にも凝縮され敏感だ。
 大きな大人なら『ありがとう』、『くすぐったい』程度のものだろう。

 ――しかしクズは、性欲満ちる思春期真っ盛りの男の子。