「なんだ、爺さん。まだいたのか」
「ええ、最後にご挨拶と……。実は一人――面白そうな人材を見つけましてな。本人も望んでおりますし、是非ギルバート殿の傭兵団に入れて欲しいと……」
「……本気か? 人材を求めた商人には、どう説明するつもりだ」
「破格の値段で難題依頼をこなしていただきましたからな。補償金は、私が払っておきましょう。ギルバート殿への恩義と……今後の繋がりへの投資とかんがえてくだされ」
「そうか。……まぁ、本人の希望を尊重すっか。そんで、入団希望者は今どこに――」
「――はい! ここです団長殿!」

 遙か遠くから、飛ぶようにジャンプしてクズの前にやってきた。
 魔法を使った様子もない。
 外見は長い金髪をポニーテールに纏めており、子供のように小柄だ。
 胸は――……。

「貧乳だな、不採用」
「やっぱり、クズ君はちゃんとクズだね」
「人は胸じゃ無いよ!? ぼくの中身も見て! ほら、こんな事もできるんだから!」

 たたっと駆けだしたかと思うと、クズが天職の一つ、錬金術で作り出した土塀に掌をつけて止まる。

「猿が反省してるポーズか? そんぐらい俺でも――」

 彼女は片足を引いて深く息を吸うと――。

「ふんっ!」

 力をこめて押し、塀が爆砕した。
 それはもう、巨石でも落ちてきたような音を立てて。
 バラバラと吹き飛んだ土が、呆気にとられるクズたちの顔へとへばりつく。

「――えぇ……何、あの身体能力。こわぁい……」
「お、驚かれましたかな? どうやら鎖国している極東の島国、大八洲で売られたそうなのですが……。『怪力』の天職持ちのようでして」
「――は? 天職持ちの奴隷?」
「天職持ちって、それなりに貴重。占い師に天職なしって言われる方が多い」
「そんな子が、奴隷として売られたのかい?」
「……私みたいに、訳ありなのかな?」

 笑顔でピョンピョン跳ねながら戻ってきた。

「ぼくね、この怪力の代償ですっごいご飯食べないといけないの! 実家お稼業もできないし、『お前に向いている場所に養子に出す』って売られてね! ぼくを買った道場も、ご飯代が無くなったみたいで『これ以上置いとけない』って、また捨てられちゃった!」
「そんな暗い過去を笑顔で言うな。反応に困るわ」
「あ……もしかして、あなたはさっき『自分の食い扶持は自分で稼ぐべき』って声をあげてくれた子かな?」
「それだけじゃない。確か、墓穴を掘るのも手伝ってた」
「……何?」

 アナとマタの言葉に、クズも反応する。

(……家畜のように生きていた集団の中で、周りに流されず意見を言う奴がいたか)

 軽く目を開きながら、怪力の女性に確認を取るように視線を向ける。

「そうだよ、でもみんな聞いてくれなくて暴れ出したから……。ぼくも段々頭にきて、もう暴れちゃおっかなって思ってたんだ! 団長さんが来なかったら、全員ぶちのめしてたかも?」
「だから、笑顔で物騒なことを言うなっての……」

 クズの顔が引きつってしまう。
 こんな身体能力を持った奴が暴れていたらと思うと……背筋が凍った。

「クズ君、僕は彼女の入団に賛成だよ。気骨がある生き様、漲る力は……僕の腕のように美しい」
「腕にキスすんじゃねぇナルシスト、髪の毛抜いてケツに植えるぞ」
「義兄様、私からもお願い。腕の立つ団員は、依頼達成に役立つ」
「そうだなぁ……」

 クズは失落の飛燕団の戦力を思い返す。
 失落の飛燕団の戦力を総合的に考えれば――物理的な攻撃能力の高い兵が不足していた。
 腕が立つ者と言えば後衛兼頭脳担当の魔法使い、マタ。
 同じく後衛兼筋肉担当の狩人、ナルシスト。
 次点として、癒やし担当のアナぐらいだ。
 そうして、クズは気がついてしまった。

(あれ? 今まで俺が危険な目に遭ってたのって……もしかして、俺以外に前に出て戦えるまともな奴がいないから?)

 前に出てまともに戦える者がいれば――自分の危険や負担が減るかもしれない。

「よし、可愛いお前等の頼みだ! 認めよう!」
「……クラウス? なにか、打算あるよね? いきなり興奮して笑い出したよ?」
「気のせいだ。お前、名前は?」
「私は、アケチチサだよ!」
「そうか、呼びにくい。お前の名前は今から――チチだ」
「チチ!? なにそれ!? でもまぁ細かいことはいいのです! よろしくね、団長殿!」
「俺の事はクズでいい」
「クズ団長殿!」
「……もう、それでいいや」

 こうして失楽の飛燕団に、貧乳の怪力元気娘――チチが加入する事になった。
 難事を解決した失落の飛燕団四十二名は、新たな仲間を加え再び旅に出る――。