冷静に考えると、女の子が1人でいる部屋に無断で侵入しようとしている時点でまずいのでは。

けれどせっかくここまで足を運んだのから、そのまま引き下がるわけにはいかない。

罪悪感を抱きながらゆっくり扉を開き、部屋に入る。

部屋の奥にあるベッドに目をやると、掛け布団がうずくまった状態の人間をすっぽりと覆っていた。大友さんは布団を頭まで被ったまま眠っているようだ。

ベッドの隣にある簡易的な机に目をやると、いつも肩から下げているグレーの鞄だけが置いてあった。そのすぐ下の床には、画面の端にひびが入っている彼女のスマホが落ちている。

彼女は何の準備もせずこの部屋に運び込まれたということが見て取れる。

人の気配に気が付いたのか、大友さんは布団から顔だけ出し、虚ろな表情で当たりを見回す。額には包帯が巻いていて、さらりとした特徴的な髪は重力に逆らって四方八方に散らばっていた。


「……ん」


彼女はまだ微睡(まどろみ)の中にいるのか、吐息(といき)のような声を漏らし、(うつろ)な目を僕に向ける。

徐々に現実世界に戻ってきたのだろう。大友さんは何度か目を(しばたた)かせてから、瞳の大きさを元に戻した。と思ったら、もともと大きな瞳が、さらに大きくなった。


「え……なんで……」


現状が理解できていないのだろう。彼女は驚いて布団の中に帰ってしまった。


「ちょ……今めっちゃ不細工だから、見ないでください……」

「ご、ごめん……今日は帰るね」

「行かないで!」


慌てて立ち去ろうとしたら、大友さんは布団の中から掠れた声を精一杯放った。再び静寂(せいじゃく)の時間が流れる。


「ここにいてください」


一旦喉を潤すためとお互い気持ちを落ち着かせる時間を確保するために1階の受付前にあった自販機に飲み物を買いに行く。

そのまま帰ってしまうのではと思わせないように、鞄は部屋にあったパイプ椅子に置いたままにしておいた。

パイプ椅子が(きし)む音で僕が帰ったことに気が付いた大友さんは、手櫛で必要以上に髪を解きながら布団から出てきて上体だけ起き上がらせた。