外に出た瞬間、身震いがした。
最も太陽が高い位置にいる時間帯にも関わらず、相変わらず風は冷たい。空には一面燻んだ色の雲が敷き詰められており、上空からは凍りかけた雨が落ちてきそうだった。大友さんは無事だろうか。
いざ捜索するとは言ったものの、彼女の行きそうなところは見当も付かない。
そもそも大友さんはどこに住んでいて、どこの学校に通っているのか。
結局僕は大友さんのことを何も知らない。
そんな状態で家を出て、一体どうしようというのか。軽率な行動だということくらい、わかっている。
とりあえず一度かもめ書店に寄って大友さんの住所を教えてもらおうか。
面接の時の履歴書が保管されているはずだし、緊急連絡先も控えているはず。個人情報を聞き出すことなんてできるわけないかもしれないが、緊急時である今の状況ならもしかしてと思ってしまう。
そんな浅い見立てに縋りながら電車に乗る。
電車の中で何度か大友さんに電話をかけてみるが、当然出る気配は微塵も感じない。代わりに折り返し連絡をしてほしいとメッセージだけを残しておく。
ぼんやりと窓の外を眺めると、サイレンを鳴らした救急車が大通りの中央車線を走行しているのがわかった。
サイレンの音までは聞こえなかったが、赤々としたランプを周囲に撒き散らしながら周囲の車をかき分けて疾る姿は、事態を悪い方向へと想像させる。
ポケットから振動が伝わってくると、僕は電車内にも関わらず反射的にスマホを取り出し、通話ボタンをタップする。
「大友さん。今、どこに」
『すみません。わたし、一ノ瀬です』
「あ、ごめん」
向かいの席に座っていたお婆さんに睨まれてしまったから、2両編成のうち出来るだけ人がいない方の車両に移った。席には座らず、端の方で壁にもたれ掛かり、スマホに手をかざしながら小声で話す。
『今、お電話大丈夫ですか?』
「大丈夫」
『今、講義が終わったので、大友ちゃんを探しに行こうと思います』
「わかった。二人がかりで探そう。大友さんの行きそうなところに何か心当たりがないかな」
『前に一緒に遊んだ時に寄ったところなんですけど』
スマホのメモ機能を立ち上げる。
ショッピングモールの二階にあるゲームセンターや大きめの駅中にあるチェーン店のカフェ、そして文化堂書店。一ノ瀬さんが教えてくれた場所は、何となくあてが外れていそうではあった。
「学校とか、家の近くとかは?」
『それは……ないと思います』
「そっか」
興味がないように、聞き流すふりをする。
大友さんが今まで頑なに家や学校のことを言わなかったのは、きっと知って欲しくないからだろう。向こうから言われないことは知らなくてもいい。そう決めていた。
せっかくだから言われたところを順に向かおう。大友さんは普段どこに行き何を好んでいるのかを知りたかったのもある。
「今から行ってみるよ」
『お願いします』
「もし見つからなかったら、一度海猫堂に集まって作戦を練り直そう」
『はい』
一ノ瀬さんは何かの決意をするかのように、はっきりとした口調で返事をした。
大友さんには、松田さんや一ノ瀬さんのように本気で心配してくれる人間がたくさんいる。おそらく当の本人はそんなこと知る由もないだろうが。
「どいつもこいつも……」
吐き捨てるように言った言葉は、大友さんだけに向けたのではない。
最も太陽が高い位置にいる時間帯にも関わらず、相変わらず風は冷たい。空には一面燻んだ色の雲が敷き詰められており、上空からは凍りかけた雨が落ちてきそうだった。大友さんは無事だろうか。
いざ捜索するとは言ったものの、彼女の行きそうなところは見当も付かない。
そもそも大友さんはどこに住んでいて、どこの学校に通っているのか。
結局僕は大友さんのことを何も知らない。
そんな状態で家を出て、一体どうしようというのか。軽率な行動だということくらい、わかっている。
とりあえず一度かもめ書店に寄って大友さんの住所を教えてもらおうか。
面接の時の履歴書が保管されているはずだし、緊急連絡先も控えているはず。個人情報を聞き出すことなんてできるわけないかもしれないが、緊急時である今の状況ならもしかしてと思ってしまう。
そんな浅い見立てに縋りながら電車に乗る。
電車の中で何度か大友さんに電話をかけてみるが、当然出る気配は微塵も感じない。代わりに折り返し連絡をしてほしいとメッセージだけを残しておく。
ぼんやりと窓の外を眺めると、サイレンを鳴らした救急車が大通りの中央車線を走行しているのがわかった。
サイレンの音までは聞こえなかったが、赤々としたランプを周囲に撒き散らしながら周囲の車をかき分けて疾る姿は、事態を悪い方向へと想像させる。
ポケットから振動が伝わってくると、僕は電車内にも関わらず反射的にスマホを取り出し、通話ボタンをタップする。
「大友さん。今、どこに」
『すみません。わたし、一ノ瀬です』
「あ、ごめん」
向かいの席に座っていたお婆さんに睨まれてしまったから、2両編成のうち出来るだけ人がいない方の車両に移った。席には座らず、端の方で壁にもたれ掛かり、スマホに手をかざしながら小声で話す。
『今、お電話大丈夫ですか?』
「大丈夫」
『今、講義が終わったので、大友ちゃんを探しに行こうと思います』
「わかった。二人がかりで探そう。大友さんの行きそうなところに何か心当たりがないかな」
『前に一緒に遊んだ時に寄ったところなんですけど』
スマホのメモ機能を立ち上げる。
ショッピングモールの二階にあるゲームセンターや大きめの駅中にあるチェーン店のカフェ、そして文化堂書店。一ノ瀬さんが教えてくれた場所は、何となくあてが外れていそうではあった。
「学校とか、家の近くとかは?」
『それは……ないと思います』
「そっか」
興味がないように、聞き流すふりをする。
大友さんが今まで頑なに家や学校のことを言わなかったのは、きっと知って欲しくないからだろう。向こうから言われないことは知らなくてもいい。そう決めていた。
せっかくだから言われたところを順に向かおう。大友さんは普段どこに行き何を好んでいるのかを知りたかったのもある。
「今から行ってみるよ」
『お願いします』
「もし見つからなかったら、一度海猫堂に集まって作戦を練り直そう」
『はい』
一ノ瀬さんは何かの決意をするかのように、はっきりとした口調で返事をした。
大友さんには、松田さんや一ノ瀬さんのように本気で心配してくれる人間がたくさんいる。おそらく当の本人はそんなこと知る由もないだろうが。
「どいつもこいつも……」
吐き捨てるように言った言葉は、大友さんだけに向けたのではない。