目覚めの悪い朝だ。

人生で最も思い出したくないことをわざわざ夢の中で思い返すのは、大体は脳が疲れている時か心が荒んでいる時。

そんな時は、これ以上夢の続きを深追いすることはせず、ただ溜まった仕事を片付けたり、家の中にある不用品を捨てたりと、目の前のことに集中する。そうしておけば、いつの間にか忘れ去るはず。

けれど、今日はあえてそうしない。

田中佳が命を断つこと自体に大きなショックを受けることはなかった。心のどこかで最後の選択肢として持っていたのではないだろうかと思っていたから。

ただ、引き金になったのは、決定打となったのは一体何なのか、今でも気になって仕方がなかった。彼女の自殺を止められなかったという罪悪感は、おまけみたいなものでしかない。

床に落ちているスマホがわずかに振動する。画面にはメッセージアプリの受信を知らせる通知。一ノ瀬さんからだった。

【沙希】:お休みのところすみません。大友ちゃんが行方不明になったみたいです。

どうしろというんだ。

通知が来てからほとんどノータイムでメッセージを確認したため、僕がすぐに既読を付けたことは、おそらく一ノ瀬さんも伝わっている。

昨晩お店の閉店を告げられた時、線路に嘔吐するほど大きなショックを受けた。

律儀な藤野店長のことだ。きっと僕に連絡した後、大友さんにも電話ををしたのだろう。

大友さんは純粋だ。

思い入れのあるものを突然失うことは、時に性格を歪ませてしまうほどの大きな衝撃を伴う。

僕以上にかもめ書店に思い入れがある大友さんが突然閉店を告げられたら、どんな気持ちになるのかは容易に想像ができる。ただ、その大友さんが何をしでかすのかまでは、全く予想がつかない。

あの時藤野店長に口止めしておけばこうはならなかったのだろうか。

いや、遅かれ早かれこういう結果になっていたんじゃないのか。

迷惑だと思ったが、文章では伝えきれない感情があったから、戸惑いながらも通話ボタンをタップした。

5回ほどコールが鳴る。やはりいきなり電話をするのは迷惑だったかと考え始める頃、コールが途切れた。