お店で働く人たちはどうなるのだろう。

僕はともかく、特に松田さんや佐藤さん、五十嵐さんら長い間勤めている人は、突然働き先をなくすことになる。失礼だが、この人たちは年齢的に考えて、すぐに働き先を見つけることは難しいだろう。

特に佐藤さんは街から離れた田舎の集落に住んでいて、自宅で親の介護を行いながら働いていると言っていた。それに、常連さんの中に、足が悪くて遠方に出かけられないというお客さんもいた。

当然かもめ書店がなくなってしまえば、書店にすら足を運べなくなるだろう。

延々と巡る思考と感情を処理しきれなくなった僕の脳は、やがて吐き気を催すほどの頭痛を引き起こす。

電車内で胃の中のものをぶちまけるという最悪の事態は避けることができたが、ホームに出た途端に緊張の糸が緩まってしまい、咄嗟に反対側の線路に向けて我慢を解いた。

口の中が異様に苦いのは、胃酸だけでなく、さっき海猫堂で飲んだコーヒーも混ざっているからだろう。

ホームの真ん中に設置されている自販機でミネラルウォーターを買い、それを口に含んで吐き出す。

堪えきれなくなった感情が吐瀉物となって吐き出されたみたいで、気分は幾分(いくぶん)かは楽にはなった。けれど今度は全身に力が入らない。身体はどこまでも正直だった。

電車を降りて何とか家に辿り着くと、辛うじて敷きっぱなしの布団の上まで辿り着くことができた。

そこからはもう意識が飛んだように眠ってしまったようで、記憶が全く残っていない。

大友さんのことが気がかりになったのは、目が覚めてしばらく経ってからだった。

僕はいつも気付くのが遅い。