「似ていたんだ」


本心を体現(たいげん)しているかどうかはわからない。ただ、一番初めに出てきた言葉を、一切の加工をせず、外に出したのがこれだった。


「似ていた?」


大友さんは怪訝(けげん)な顔で反芻(はんすう)する。


「以前勤めていた会社の同期に。高校の時の同級生で、とても大切な存在だった。もう亡くなってしまったんだけどね」


伝えられる範囲で会社員時代の話を続けたが、しばらくしたところで大友さんは話を静止した。


「ちょ、ちょっと待ってください」


(さえぎ)られてから、ようやく自分が恥ずかしくなる。彼女が受け止めてくれるとでも思ったのか。


「好きだった女の子を死なせてしまったから、代わりにあたしに優しくすることで自分を赦そうとしているってことですよね」

「好きだった?」

「はい。そんなに未練があるなら、好きだったってことじゃないんですか。というか、ずっとあたしにその人を重ねてたんですか?」


誰にでも少なくとも、今、目の前にいる大友さんのことを、大友さんとして認識していたはず。

明るいところはもちろん、思い切った行動を取るところや、一度集中し始めると驚くほど成長するところーー

……。

彼女は、

僕は誰を()ていたんだろう。

何も答えられなくなった僕なんかより、大友さんの方がずっと酷い顔をしている。小さく溜息を吐いた彼女は、今にも泣きそうだった。

目の前にいる彼女が感じていることが、今になってようやくわかるような気がした。

そんな状況であるにも関わらず、沈黙を破るのはいつも彼女の方からだ。


「なんで、あたしじゃないんですか」

正気を含まない彼女の声を、僕の耳が(すく)い取る。


「ごめん」


この後に及んで、僕はそういう薄っぺらい選択しかできない。


「あたし、そろそろ帰ります」


大友さんはそう言って立ち上がると、つま先を椅子の足にぶつけたり、ポケットからスマホを落としたりと、明らかに動揺している様子だった。

引き止めるタイミングは何度もあったが、そうしなかった。

理由がなかった。

彼女がお店を出てから、胸の中にようやく後悔というはっきりとした名前がある感情が湧いてきた。

僕はいつも手遅れになってから気が付く。


「どうぞ。よかったら飲んでいって」

「ありがとうございます」


取り残された僕も帰ろうとして席を立とうとすると、郁江さんがコーヒーのおかわりを出してくれた。その心遣いがありがたく思った。

けれど同時に添えられた励ますような笑顔は、素直に受け止めることができない。


「嫌われちゃいました」


恥ずかしくなって、目を逸らしながらわざと砕けた表情を作る。


「大丈夫。仲が深まる前のイベントみたいなものよ」

「そんな前向きに考えられないです……」


人生の先輩が励まそうとしてくれて、正直泣きそうになった。


「あなた達なら大丈夫よ。栞ちゃんは簡単に蒼くんのことを嫌いになるはずがないわ」


「まあ、嫌われたら嫌われたでしょうがないんですけどね」

「投げやりになっちゃ駄目。過去は過去、今は今」


どうやら僕らの会話は全部聴かれていたみたいで、重ねて恥ずかしくなる。