かもめ書店のSNSを任されたところまではよかったが、当然ながら今までお店や商品の宣伝なんてしたことがない。
どうしたものかと途方にくれていると、藤野店長が隣町にある別の系列の大型書店『文化堂書店』の売り場を見てみると良いとアドバイスしてくれた。
そう都合良く3人がシフトに入っていない日なんてと思ったが、提案された週末の日曜日がその好都合になっていたから行ってみることにした。藤野店長はこれすらも謀っていたのだろうか。
「まさか蒼さんから誘われるなんて思ってませんでしたよ」
「一応言っておくけど、遊びじゃないからね」
「わかってますって。一ノ瀬さんも偵察頑張ってくださいね!」
「うん」
すっかり遠足気分の大友さんの雰囲気をもらっているのか、一ノ瀬さんの声が心なしかいつもより大きい。
浜岡駅から電車で30分ほど都心に向かうと、県内で一番大きな稲葉駅に着く。その駅の改札を出てから歩いて5分もしないところに文化堂書店があった。
文化堂書店はこの地域を中心に展開している大きな書店で、地元の人や駅を利用する人など幅広い人間に利用されるお店だ。ちなみに地図アプリで調べたらこの地域周辺に文化堂書店が3店舗もあった。
不謹慎だが書店業界は等しく右肩下がりであるため、同業者同士の対立は少ないと言っていい。
むしろ今は生き残りをかけてお互いに協力できるところはしようというスタンスらしく、稀に各企業の役員同士が情報交流会を開いているらしい。まあ僕らには関係の無い話だが。
「うちと違って随分広いお店ですね」
先陣を切った大友さんが、店内に入るなり、堂々と新刊台に並んでいる本を物色し始めた。
膝丈くらいまであるベージュのチェスターコートを羽織っていたから大人びて見えていたのだが、本を手に取る仕草やいちいちあげる感嘆の声を聞いていると、やっぱり年相応だと感じてしまう。
「あ!一ノ瀬さん、あそこにカフェもありますよ。あとで寄りましょう!」
「ほんとだ。最近の書店って、カフェが併設しているところが増えてきたよね」
一眼レフカメラを肩から下げている一ノ瀬さんは、興味深そうにカフェの方に目をやる。彼女は電車の中で外の景色を何度もカメラに収めていた。
何というか、2人はちゃんと休日を楽しもうとしている。
「お会計前の本も読めるって書いてますよ。斬新!」
「汚さないようにって考えると、ちょっと気を遣っちゃいそう」
「あたしだったら汚す自信あります」
「ふふっ」
2人が話しているのを遠目から眺めていると、姉妹のようにも見えてくる。
「蒼さん、あれ、なんですか?」
入り口の突き当たりにある児童書コーナーの方に進んだ大友さんが、小さなテーブルの上に置かれた籠を指差した。
どうしたものかと途方にくれていると、藤野店長が隣町にある別の系列の大型書店『文化堂書店』の売り場を見てみると良いとアドバイスしてくれた。
そう都合良く3人がシフトに入っていない日なんてと思ったが、提案された週末の日曜日がその好都合になっていたから行ってみることにした。藤野店長はこれすらも謀っていたのだろうか。
「まさか蒼さんから誘われるなんて思ってませんでしたよ」
「一応言っておくけど、遊びじゃないからね」
「わかってますって。一ノ瀬さんも偵察頑張ってくださいね!」
「うん」
すっかり遠足気分の大友さんの雰囲気をもらっているのか、一ノ瀬さんの声が心なしかいつもより大きい。
浜岡駅から電車で30分ほど都心に向かうと、県内で一番大きな稲葉駅に着く。その駅の改札を出てから歩いて5分もしないところに文化堂書店があった。
文化堂書店はこの地域を中心に展開している大きな書店で、地元の人や駅を利用する人など幅広い人間に利用されるお店だ。ちなみに地図アプリで調べたらこの地域周辺に文化堂書店が3店舗もあった。
不謹慎だが書店業界は等しく右肩下がりであるため、同業者同士の対立は少ないと言っていい。
むしろ今は生き残りをかけてお互いに協力できるところはしようというスタンスらしく、稀に各企業の役員同士が情報交流会を開いているらしい。まあ僕らには関係の無い話だが。
「うちと違って随分広いお店ですね」
先陣を切った大友さんが、店内に入るなり、堂々と新刊台に並んでいる本を物色し始めた。
膝丈くらいまであるベージュのチェスターコートを羽織っていたから大人びて見えていたのだが、本を手に取る仕草やいちいちあげる感嘆の声を聞いていると、やっぱり年相応だと感じてしまう。
「あ!一ノ瀬さん、あそこにカフェもありますよ。あとで寄りましょう!」
「ほんとだ。最近の書店って、カフェが併設しているところが増えてきたよね」
一眼レフカメラを肩から下げている一ノ瀬さんは、興味深そうにカフェの方に目をやる。彼女は電車の中で外の景色を何度もカメラに収めていた。
何というか、2人はちゃんと休日を楽しもうとしている。
「お会計前の本も読めるって書いてますよ。斬新!」
「汚さないようにって考えると、ちょっと気を遣っちゃいそう」
「あたしだったら汚す自信あります」
「ふふっ」
2人が話しているのを遠目から眺めていると、姉妹のようにも見えてくる。
「蒼さん、あれ、なんですか?」
入り口の突き当たりにある児童書コーナーの方に進んだ大友さんが、小さなテーブルの上に置かれた籠を指差した。